「あっ…。」
やってみる価値はあるか。犠牲はやむを得ないけど。
俺は、シェリルに向かい斜めに走りだす。余り向かい過ぎず、ちょっと距離が近づくぐらいで、どったかといえば、横に走ったという感覚で。
「あら?急に元気になったわね。」
シェリルはフッと笑い、水鉄砲の力を広範囲にしてきた。
よしっ。やってみよう。
俺はシャワーのように広範囲に広がった水鉄砲の力に飛び込んだ。痛い。広まった分弱まるとはいえ痛い。でも耐えれないほどじゃない。なるべく全身に水を…。
「馬鹿。」
シェリルは、今俺のいる位置に一点集中を始めた。水の勢いが強くなってくる。痛い。
俺はまた斜めに走り近寄る。少しずつ少しずつ、斜めに走りながら近づくと、一点集中じゃ間に合わなく、また広範囲に魔法をしてきたが、広範囲じゃ耐えれる痛みなので無意味だと思ったのだろう。先程のエメラルドグリーンに目の色を変えた。
「火柱(ヒバシラ)」
先程のように地面から火柱を放ってくる。
俺は右に左と必死に走る。近づく事はやめない。
火柱も、無差別にではなくやはり能力者が位置を操っているようだ。俺が余りにも右や左に動くのでついていけずにいる。
シェリルを捕らえた。剣を握る手に力がこもる。
「火壁(ヒカベ)」
シェリルは慌てて、自分の前に壁を作った。だけど俺はもう足を止めない。
「嘘。」
シェリルは驚いた。火壁の中から俺の姿が見えたからだ。俺は、火壁を突っ切り、握った剣を振り下ろす。
「!?」
シェリルの首筋で剣を止めた。もちろん鞘に納めた剣なので切れはしないが。
「まさか、体中に水を浴びて火壁を突っ切ってくるなんて思わなかった。」
シェリルが笑った。こんな馬鹿げた事をやるような奴はいないだろう。シェリルが手加減して技を使っていたからできた事である。
「勝者オニキス!」
ウラヌスの声が響く。
「だが、オニキス。今のは今回だけしか通用しない事だ。自分がまだまだ甘いと知れ。そんな力じゃ戦闘などできぬ。」
ウラヌスは厳しかった。
俺も自分でわかっている。わかっているから言われると腹がたつが、たしかにその通りだ。俺は偏って修行し過ぎたのだ。
悔しい。悔しいけど俺が今日戦地に送られていたら、もう死んでいたかもしれない。