「あら、まだ若いボウヤだね。」
シェリルは、ジロジロと俺をなめ回すかのように見ている。ちょっとドキっとしたが、やはりここは戦場、深呼吸をして気持ちを整える。
「お手柔らかにたのむわ、ボウヤ。」
シェリルはウィンクをしてきた。
俺は鞘に入った剣をグッと握りしめ、構えをとる。
(一発。一発で決めよう。相手は魔法使い。呪文を唱える時間も必要だろう。あのタケシさんみたいに、開始と同時に飛び込んで一発で気絶する位置を狙おう。)
イメージはできた。後はいかに早く反応するか。

「始め!」
俺は動いた。狙うは首、後ろ。相手の裏にまわらなければならない。全速力。
「火壁〔ヒカベ〕。」
「あちっ!」
シェリルの後ろに回れた時だった。
シェリルの声と共に、急に目の前に火の壁が現れたのだ。いや、火の壁だと気づいたのは今、その場から離れ、シェリルの姿を見たからなのだが、とにかく熱を感じた。危ない!と思い、シェリルから距離を置いた。
シェリルの背中側には、壁のように轟々と炎の壁が燃え盛っている。
「わかりやすすぎよ。私達能力者だって、ちゃんと対策は練ってるもんよ。」
シェリルはこちらに向き、ふっと笑いながら火の壁を消した。
「せっかく王の前で披露できる場だから、どんどんいかせてもらうわね。」
シェリルの顔つきが一瞬で変わった。いや、目が変わったが正しいか。さっきまで茶色だった目が、どんどんとエメラルドグリーンに変わっていく。俺は初めて見るその目の変化に見とれてしまった。
「ほう…ベリル族の人間か。」
王は、身を乗りだしシェリルの目を食いいるように見つめた。
ベリル族。俺は聞いたことはない。種族の者、皆このように目の色が変わるのだろうか?
「火柱〔ヒバシラ〕!」
シェリルがそう叫ぶと、俺の立っている真下から火の柱が現れた。慌てて避けるが、次から次へと柱は現れる。避けるのに必死だ。
このままでは、今までの苦労が全部水の泡になってしまう。何とか反撃しなくては。