手首につけたベルトに目をやった。
あの夏祭りも懐かしく思えた。
このベンチに前にも一度座ったことがある。ケイラに、いきなり冷たい缶ジュースを当てられた所だ。
大急ぎで逃げ回り、街中を自転車で駆け回った思い出(トラウマ)もある。
文芸部で書いた小説、ジュマに教えた小説の書き方。
エリカと遊んだ、自分の部屋。
シュンリにかけた間違い電話。
すべてが愛おしくも思えた。
そうしていると、後ろから首筋に冷たい缶ジュースを当てられる。
「何してんの?」
夏のあの日と同じ登場の仕方だ。ケイラが持っていたのは、1本の麦茶。明るい茶髪が、日差しに照らされて輝いていた。
「それは・・・こっちの台詞」
「ん、俺は、会いたくなったから」
「この前も言ったね。それ」
「いつだっけ」
「ケイラが、学校に無断侵入してきた時」
「ああ、あの時な」
いつになく柔らかく笑って、麦茶の入った缶を開ける。
「無性にそういうことを考えるのが多いね。そっちは」
「そうか?」
「うん」
そう言ったが、キャプテンにとっては、今一番誰に会いたいと言うときに来てくれるのは嬉しい事でもあった。
「で、お前は何でそこにいるんだよ。またバテたのか?」
「いんや・・・。そうではないな」
暗い様子だったのがばれたのだろうか、キャプテンも出来るだけ表情を隠そうとした。