変なことで手を出して名が知れ渡ってしまっては困るので、私は麻薬の取引にわ関わろうとせず、その場を去っていく。
「だよねー」
「まじ?やだぁ」
仲良さそうに話している金髪の女子高生を見て、イラつく前に羨ましい気持ちにかられた。
―私、まだ未練があるんだ。
昔の「普通」の生活に。とっくのとうに必要がなくなって、その生活を捨ててまでこの世界を選んだと言うのに――。
私は不覚にも涙が滲みそうになる。優柔不断に近い気持ちを抱く私への憤りと、一般人になれたらいいのにという――理想。
―どうして、今更になって、後悔するんだろう。
気付いても遅いのに、何故戻りたいと思い、願ってしまうのだろう。
奪った命は、たとえ全て悪人だとしても、戻ってこない。そんな世界に入ってしまえば、自分も戻ることは出来ない。
そんなことは、私自身が十分承知していたのに。
「・・・バカじゃないの・・・?」
私ったら、なんてバカなの?
心臓を大きな拳に握りつぶされ、手放され、さらにまた握られたような息苦しい感覚だった。一発で言えば、不快な感覚だ。
きっと、離れていった「もの」を取り戻したような思いが出来てしまったせいで、昔の生活への未練が湧き出てきてしまったのだろう。
失ってきた、独りぼっちだった自分にとって大切な『仲良し』の存在。
裏の世界から足を洗い、結婚したり一般生活を送っている人間は極僅かだ。そうしたい気持ちはあっても、私には、そんな勇気がない。
男相手に拳を交える度胸も、違う世界に移る決心もあったのに、抜け出そうという『勇気』の実現が出来ない。