クラスに戻ると、俺は顔を伏せてホームルームまで休む事にした。誰とも話したくないので、一切関わりを持たない。
机に顔をつけて右を向いた時、ふと1人の女子生徒のキーホルダーが落ちたのを目にする。放っておくのも酷な事だったので、仕方なく拾って呼び止める。
彼女が振り向くと、俺はキーホルダーを摘むようにして手渡した。
「落とした」
「あっ・・・ありがとっ」
何を恥ずかしがる必要があるのか、キーホルダーを受け取ると顔を火照らせて女子生徒の集まりの方に向かって行った。
その様子を見ていると、あの夏の前、モトジマが転向してきて間もない頃を思い出す。
いきなり理科室に入ってきて、そうしたらキーホルダーを落として逃げて行った。その後に届けに行った記憶が鮮明に蘇る。
絶対的記憶力を持つ俺は何かを忘れたことはなかったが、ここまで鮮明に思い出したのは初めてだ。
あの時は、俺を見て逃げていったので、もしかして怖がらせたのではないかと今更になって心配する。
・・・というか、他人に怖がられる事を、何で心配する必要があるんだ?
変だな。