そう言って職員室から出ると、少し歩いて「チッ」と舌打ちする。

苛立ちもあったが、何となく頭がくらくらとするダルさのせいでもある。
職員室がある北校舎から南校舎に移る途中、視線を感じた。女子らしい声が聞こえた。

「背高いなー。180センチ越えかな?」
「黒王子ってカンジ!」
「カッコイイよね!」

誰のことだ、と思いながら俺は女子達の目線を辿って自分の後ろを見る。見るが誰もいない。後ろを見たときに手の力が抜けたのか、吹いた風に例の書類が飛ばされる。

「あ」

思わず声を上げた。細かい事を見られるとまずいので、急いで拾いに行く。久しく本気を出して走ったからか、すぐ書類に追いついた。
見られたらどうするんだ、と喋るはずもない書類に叱り付けるように思う。

「すごーい、足速い」
「脚長いもんね」
「テンパらなかったね!落ち着いてる」

最後の言葉が、一瞬「テンパ」と聞こえて、俺は「天然パーマ」と言って来たように思えてムッとした。この黒髪はウェーブが妙にかかりすぎているところがあり、よく「テンパ」とからかわれたことがあって以来、気にしている。

「誰がテンパだ」と文句を言ってやろうと思ったが、そこで首を横に振る。

だって、俺のこと言ってるわけじゃないだろうし。