秋乃は俺と同様、両親を亡くし、土岐に拾われてここで育った孤児。いや、俺は親を亡くしたのではなく、親に手放されたと言うべきなのだが。
「土岐に助けられたのは・・・秋乃も同じだろ」
「そうだけど・・・」
「それで死んだら忘れろなんて・・・薄情だろ」
「それは」
そう言いかけ、秋乃は口をつぐむ。俺はいつもより強い口調になってきているのを悟ると、首を横に振って「ゴメン」と言い、学校に行くという口実で直接そこから学校に向かう。
・・・
学校までの道のりを歩いていると、ふとある所が目に入る。土岐と初めて出会った駐車場。大人用のレインコートに包まれ、3歳、丁度我慢とちゃんとした言葉を覚え、ハッキリとした感情が生まれてきた年で親に捨てられた所。両親に対する憎しみを思い出す場である。
土岐に拾われたのは、もう少し向こうの河川敷だった。思い出すだけで暖かみを感じる。
「でも・・・土岐は死んだ」
言葉に出すと余計に実感が湧いてきてしまい、苛立たせた。あの警察官を思い出させて、俺は強く歯ぎしりを立てる。ウェーブがかった髪の毛を掴んで、気持ちを落ち着かせる。
あの警察官も病死した。体を腫瘍の巣にして、ジワジワと苦しんで死んでくれたことを、ありがたく思う。
殺人事件の犯人を追い詰めた土岐を殺した、その犯人が御曹司ということを恐れて、そのために銃で土岐を撃ち殺した、あの警察官が、楽に死ぬなど許せなかったからだ。