私たちは再び車に乗り込み、
帰る途中、先生は携帯ショップに車を止めた。
一緒にそこへ入り
たくさん並んでいる携帯電話を見る。
「私も携帯があれば
いつでも話せるのにね」
私は寂しそうに呟いた。
私も携帯を持っていなかった訳ではない。
持っていた携帯をトイレに落してしまい使えなくなってしまった。
これに両親は呆れ、未だに買って貰えなかった。
先生がお店の人と何かをずっと話している間
いろいろな携帯を手に取り触って楽しんだ。
しばらくして
先生は新しい携帯電話が入った袋を持ち、一緒に車に戻った。
先生は私を家へ送り届ける途中
車を路肩に止め
先ほどの袋をごそごそし始めた。
そして、携帯の箱を一つ私に差し出した。
「携帯を欲しそうにしてただろ?進級祝いだ」
そう言って
その箱を私の手に乗せる。
「でも先生のは?」
私は上目遣いに先生を見る。
「同じのを二個買った」
「いいの?」
聞き返す私に
「その代り当分わがままはなしだからな」
先生は私を子ども扱いするように言った。
「約束する」
そう返事をすると
「トイレに落すなよ」
と冗談を言って笑った。
「大丈夫。大事にするから…」
私はその箱を抱きしめた。
「あと授業中は電源を切っておけよ」
先生みたいに言うから
「はい」
と私も優等生みたいな返事をした。