「そうか?」

前を向いたままで答えた先生に

「はい」

はにかむような笑顔で返事した。


「先生って彼女いるんですか?」


私は前を向いたままで

何でもない風に尋ねてみた。

しかし、心臓は今までにない位の働きをしだした。


「いないよ」

表情一つ変えることなく
一言だけ答える先生。

私は更に

「本当に?」

先生を覗き込むように尋ねた。


「いたら今ここに羽田と居ないよ」


先生は柔らかい表情をして少し笑う様に答えた。




その答えが嬉しくて

柔らかく笑う先生の顔が私の心に沁み込んで

思わず冗談交じりに

「じゃあ私、彼女に立候補しちゃいます」


大胆な事を口走ってしまった。





さり気なく先生の横顔を伺いながら答えを待ったが

期待をするような反応はなく、
少し苦笑いをするだけ。






私は気持ちを切り替えるように

「先生、また誘ってくださいね」

そう明るく言って

「あぁ」

一言だけの返事に

「約束ですよ」



私はそう言って車を降りた。