男は嬉しそうにニヤついている。俺は、俺のニヤついた顔に恐怖した。

『な、何ですか?』

男はカバンから名刺ケースを取り出し、中を開いてその中から一枚取ってに俺に渡した。

『別に、怪しいものじゃないからね。先に言っておくけど。』


株式会社ナチュラル・グリーン 営業部 青柳佑介

『観葉植物をレンタルリースしている会社です。そこで営業やってんの。』

『はぁ。それで、俺に何の用ですか?あ、そうだ、俺は…』

途中まで言いかけたら、向こうが口を開いた。


『名前は知ってるよ。児玉直人くん。N大の三年生だよね?実家は埼玉県所沢市。両親は健在。父は銀行員、母は専業主婦。彼女はナシ、アルバイトは、今はしていないが、三ヶ月前までこの近くの飲食店で働いていたね。』

気味が悪いどころか、犯罪者のニオイすらしていた。

『……大丈夫だよ。ちょっと調べさせてもらっただけさ。』

『調べるって…、何ですか?何のためにどうやって?』

俺はこの青柳という男が不気味で仕方なくなった。自分にソックリでさえなければ、きっと警察を呼んでいた。


『んー、僕が君を利用する為に、探偵を使って調べました。』

わざとらしく、大袈裟に口をすぼめてモカを飲んでいる。

俺をバカにしているのだろうか。この変な男は、一体全体俺にとっての何なんだろう。

『正直に言って頂けて有難いのですが、怖すぎます。』

『じゃあもっと正直に言うね…。』

『はい。』


俺は青柳の目を見た。青柳も俺の目を見た。


『実は、』

『はい…』

『僕と君は…』

『うん…』

『瓜二つなんですよ』

『…それはもう分かってます。俺が聞きたいのは、何で今ここでこうして、それに利用って、どういう意味なんでしょう?』

俺は言い知れぬ不安感からか、少しイラついていた。


『実はね、君に僕と入れ替わって欲しいんだ。』

青柳は、半分眉をひそめたような、胡散臭い妙な笑顔になった。

『…へぇ。会社でも休みたいんですか?1日位ならいいですけど、俺、植物の知識なんて全く無…』

『1日じゃなくて、一生、ずーっと入れ替わっていて欲しいんだ。』

青柳は、ここへきてようやく真面目な顔になった。