来季が一瞬、泣きそうに見えた。
しかしそれは、私の願望が混じった幻だったのかもしれない。

来季は少し顎を引く程度に頷くと、無言で理科室のドアに手をかけた。

去り際にドアの向こうに見えた目は、今まで見た中で一番……怖かった。

バタン、とドアが閉まる音とほぼ同時に、その場にへたれこむ。

先ほどの堂々とした声は、ただの見栄っ張りだったんだ。
身を守る為の、下手くそな嘘だったんだ。

痛いほどに、苦しい。
苦しいよ……。

私は流れない涙を目に溜めて、ひたすらドアを見つめ続けた。