「…またな、」


 陽介先輩は一瞬だけ小さく息を呑み
 そう私に告げると、
 涙で潤んだ私の瞳を見て
 困ったように眉を寄せた。

 何か言葉を発したくて、
 しっかりと息を吸いたいのに
 あらゆる感情が絡みあって
 上手く息が吸える状態じゃない…。


 「じゃ、オレ行くから…!」


 桜の蕾が揺れる中を、
 陽介先輩は私に背中を向けて
 歩き出した。


 「…―先輩、」

 ふる、と心が揺れる。

 「っ…、よーすけ、せんぱい…」


 ようやく息を吸えて発した
 私の呼びかけも届かないくらい、
 遠くに行ってしまった背中。

 想いが溢れ出しそうになり
 湧き上がる感情でいっぱいいっぱい
 になってしまった私は…、

 ただただ静かに泣くことしか
 できなかった。