「坊が遊びたい言いよるねん」
「そうか」
 沖は千鶴子の頭をなでてから手を思いっきりひっぱり、背に乗せた。
「沖の背中は気持ち良いなあ」
 子供の頃から千鶴子は沖の背に乗るのが好きだった。兄ちゃん、兄ちゃんと言いながら、近所に住む沖のもとを訪ねていた。
 あの頃から千鶴子は少しかわっていた。柱にほどこされた模様を見ては、挨拶をしていた。風の音に、なあにと耳を傾けていた。
 風の声が聞こえる子。沖はそんな風に千鶴子を思っていた。千鶴子は純粋。千鶴子は子供。
 子供が子供を生めるわけがない。それなのに、沖は千鶴子を孕ませてしまった。千鶴子は生んではいけない。