鬼火が夕焼けにぷっかりと浮かんでいた。あれはきっと生まれてくることなく死んだ沖達の赤ん坊の泣き声に呼ばれてやってきたのだろう。
 死んでも赤ん坊はこの千鶴子の持っている人形の中に入って毎日大声で泣く。それは悪霊の類であるように思える。生きて生まれたなら良い子に育ったはずだ。だけど、赤ん坊は死んだのだ。生まれて外の世界を知りたい。外にはどんなことが待っているのだろう。そんな風に思いながら赤ん坊は待っていたはずだ。だけど、死んでしまったのは仕方がない。
 死んだらすべて終わりなのだ。
「沖い。坊がな……」
 千鶴子は人形を持ち上げて言った。唇に髪の毛が一筋垂れてへばりつき、それに涙が流れた跡なのか唾液の跡なのかが白く残っていた。