「坊が?」
 その言葉に、刺さる針のような物を感じた。
 おぎゃあ。おぎゃあ。そう言っているのだろうか。おぎゃあ。おぎゃあ。
 沖には聞こえなかった。線香をつけると、手を合わせる。愛していたんだと声に出したかったけれどやめた。何をどう言い訳しても、沖が千鶴子を裏切ってしまっていたことに違いはないのだ。けれど、それに罪悪感は生まれない。今、生きて傍にいるのは白峰で、可愛くて仕方がないのも白峰なのだ。
「ここ嫌い」
 しゃがむのをやめた白峰が、沖の手を引いた。可愛いと言ったり嫌いと言ったり、忙しいなと思ったけれど、胸をなでおろしている自分がいる。来ようと言ったのは沖の方なのに。