腕の中で彼女が頷くのを確認すると、すぐに二人は家を出た。
 墓には一度だけ行ったことがあった。埋葬の時だった。そんなに遠くなく人が来たようで、供えられている花が新しかった。
 今、白峰の墓の前に白峰が座っている。それは異様な光景だった。本当ならありえないのだ。
 そうだ。ありえない。二人の両親は死んだ千鶴子と白峰の区別がつかなかったのだろうか。沖の母ならわかる。けれど、実の親ならわかったはずだ。
「可愛いな」
 白峰が白峰の墓に向かってそう呟いている。何が可愛いというのだろう。
「坊が悲しいって泣いてるわ」