肩から落ちる白い着物。足元は赤くて、猫が毬を追いかけている。沖が一番、気に入っている着物だ。髪を洗ってやってからの方が良かっただろうか。そう思ったけれど、どうでも良いくらい美しかった。沖の知っている姿だ。沖は、確かに白峰だったのだ、とため息をついた。
 狂った方が千鶴子だった。狂った千鶴子が美しかった。可愛かった。そのはずだった。
 美しいのはやはり白峰。
「沖い」
 歯を出して笑う彼女はまるで猫のようだ。いつ牙をむくかわからない。この女はいつか昨夜のように鬼になって自分を殺そうとするのだろうか。それを考えたけれど、それに怯えて暮らすほど繊細な心を持って過ごしてはいない。
 白峰はただ、千鶴子でいたいだけなのだろう。
「こっちへおいで」