沖は背中に背負っていた白峰を両腕に抱いていた。白峰はぐったりとしている。さっきまでの鬼のような人相はなくなり、とても弱々しかった。
 これは白峰の顔だったのか。そう思って溜め息が出た。
 沖のことを愛しているわけではなく、ただ千鶴子の影を追っていた白峰。彼女のことをこれからどう呼べば良いのか悩んだ。
 憎まれてているのは確かだ。けれど、沖はずっと千鶴子と呼んできた。彼女もその名前が当たり前のように返事をしていた。
 彼女の髪をといてやっている時、幸せそうな顔をしていた彼女は、本来の自分の姿を思い出していたのかもしれない。誰よりも清潔で美しかった自分の姿を。