暑い。


思い浮かぶのはその言葉だけだった。

セミのがなり声がその言葉を更に重くさせる。

暑い暑い暑い。

おのれ田舎。

何故じいさんの家には冷房がないんだ。憎らしさすら感じるぞ。

首を伝っていく汗の感触が気持ち悪い。

「十分涼しいでしょうが」と母は強がるが、扇風機の前から離れようとしない。

涼しいと主張するならそのポジションを俺に譲ってくれ、そして畑仕事でも手伝ってきたらいい。


客間の畳の上に寝そべりながらぼーっと庭を眺める。

どこからともなく漂ってくる蚊取り線香の香りがなんだか懐かしい。