「今日の現場、思ったより近場でさ」


フライパンで何かを炒めながら機嫌良さそうに話すお母さんの手料理を食べるのも久しぶりだった。


「良かったじゃん」


お母さんの背中を見ていて、幸せな気分になった。


お母さんが結婚したのは二十歳のとき、『できちゃった結婚』だったらしい。


その半年後、21歳になった12月に私を出産した。


だから比較的若い母親だ。


私は父親のことを知らない。


何の情報も聞かされず育ってきた。


知りたくもないという自分の理由もあるが、お母さんも聞いてほしくないだろうという心遣いもある。


今更聞いたところでどうしようもないし、会いたいって気持ちもないのだから聞く必要はない。


この生活に満足している。


そんなサバサバした性格の自分に、自分で感動する。


お母さんと今まで恋愛について話したことはない。





今日までは、だった。





「ね-、お母さん」


「はいよ」


「お母さんさぁ」


「うん」


「自制心なくなる片思いってしたことある???」