私は、ただ見上げた。


しばらくして、お母さんが私に気付いてくれた。


「江夏ぁ!!!お帰りぃ!!!お母さん今日早く帰るからね!!!ばぁちゃんと待っててねぇ-!!!」


足場の上から叫んで、手を振ってくれた。


思わず、嬉しくなって手をふりかえしたんだった。


走って帰った。


おばぁちゃんに、さっきの出来事を早く伝えたかったから。


「お母さんはね、江夏のために働いてくれてるんだよ」


家で待っていたおばぁちゃんは、私にそう言った。


「新しいお父さん見付けて、結婚するのは簡単でしょ??でもお母さんは、それはしない。何でかって言うとね、江夏が大切だからだよ。新しいお父さんが来たら、江夏が可哀想。江夏が傷付くから。お父さんとお母さんは別れたけど、江夏のお父さんは世界に一人だけだからね」


そのおばぁちゃんの言葉は今も忘れられない。


あの日、私は初めてお母さんに晩御飯を作った。


それを食べながらお母さんは、分からないように泣いていた。


『おいしいよ』って言いながら。