小さい頃は大嫌いだった。


お母さんがこの服を着たら、朝早くから居なくなってしまうと分かっていたから。


作業着を隠した事もあり、とことん困らせた。


だけどお母さんは、一度だって私や和正や有希を怒った事がない。


作業着を隠しても、安全帯や工具をわざと壊しても怒らなかった。


「ゴメンな。江夏、寂しい思いさせて…ゴメンな」


いつもそうやって私を抱き締めて謝った。


そんな私がお母さんの作業着姿を好きになったのは、小学校の高学年の夏の日。


学校から帰る道すがら、ふとマンションの建設現場を見上げた。


15階建てのまだ足場と鉄筋だけのマンションの影の一角に、お母さんはいた。


赤い作業着を着て、頭にタオルを巻いてへルメットを深めに被り、汗をだらだらかきながら必死に働く、お母さんがいた。