「違うよ。」


お母さんは笑顔で答えた。


…お父さんじゃないって、それもどうかと思う。


「お母さんが江夏くらいのときに好きになった人。」


遠い目をして、そう答えた。


もっと聞きたいと思ったけど、聞かない方がいい気がして私はそれ以上聞くのを止めた。


「ほら!!答えたよ。早く話しなさいよ」


途端にお母さんはお母さんに戻った。


「好きな人がいるんだ、私」


私の話を、お母さんは頷きながら聞いてくれた。


相手に手は届かない。


相手のことを何一つ知らない。


でも好きなこと。


好きなのに、自制心が働いて、壊れられないこと…


「私、可愛くないなぁ…」


一連の話を、私はそう締めくくった。


お母さんはやっぱり笑っている。


「…馬鹿だって思ったでしょ」


するとお母さんは"くすっ"と笑った。


「やっぱり私の娘だね、江夏は。同じような人を好きになる」


そう言うと、お母さんは立ち上がってまたキッチンへ向かった。