「ココロ! 無事で良かった。よかった。よく頑張ったな」
程なくして二階から響子さん達が下りて来る。
響子さんは下りて来るや否や妹分の体躯を抱き締め、優しくと頭を撫でる。
彼女もすごくココロのことを心配していたからな。妹分の無事に心底ホッとした様子だった。
「心配お掛けしました」
ごめんなさいとありがとうを口にするココロは目尻を下げ、親身に心配してくれる響子さんや弥生と友情を確かめ合っている。
ちょっぴり涙目だったのは気の置けない女の子と話せているからだろう。目元を人差し指で拭っていた。
和気藹々と女子達が再会の喜びを噛み締め合っている中、イカバは妙に顔を顰めている。
何か不都合でもあったのかと耳打ちして確かめると、「女は怖ぇ」とだけ言葉を返す。
「は?」
目を点にする俺を余所に、健太も女は怖いと溜息。
揃って顔を渋くしているから余計俺は頭にクエッションマークを浮かべることになった。どうしたんだよ、女は怖いって……それ今更だろ。
ふと俺は弥生がキャップ帽を被っていないことに気付く。
被ることなく手に持っているキャップ帽を指差して、
「被らないのか?」
彼女に質問を投げる。
すると弥生はペロッと舌を出して、もう被れないのだと笑顔を見せてくる。
曰く古渡とタイマン張った時、キャップ帽に穴があいたとか。タイマンって……絶句している俺にグッと握り拳を見せて弥生はフンと鼻を鳴らす。
「ハジメの仇を取ってきたんだ。喧嘩してきた! 古渡に勝利してきたんだから! ね、響子!」
二人でタイマン張ったんだよね、と言う弥生の物騒な発言に、もはや俺は引き攣り笑いしか出てこない。
古渡、どうなったんだろう。
なんかイカバや健太の表情を見る限り知らぬが仏、なんだろうな。
「だ、大丈夫でした?」
タイマンしちゃいました発言にココロは心配そうな表情を作る。
「ヨユー!」
向こうは超弱かったと、弥生は胸を張った。
相手がナイフを持っていてもこのキャップ帽が自分を守ってくれた、ちょっとはにかみながら。
その表情にココロはホッとした表情を作り、「あいつに勝たないとさ」弥生は言葉を重ねる。
「ココロに顔合わせできないじゃん。私、ココロにあんな偉そうなこと言ったのに。古渡に勝ったココロはもう、昔のココロじゃないね、ウジウジオロオロオドオドする必要はもうないじゃん」
弥生の笑顔に強く頷いて、ココロは自分が大きな一歩を踏み出せたことに綻んでいる。
うん、俺も彼女に言いたい。
自分を卑下することも、もう無くなったなって。
人質を救出できた喜びを噛み締めつつ、俺達は北D-7倉庫の外に出た。
出る際は倉庫の明かりを消しておいた。外に漏れる明かりは俺達の居場所を知らせるようなもんだからな。
本当はもっと早く消しておくべきだったんだろうけど、外に出てみる限り周囲に不良らしき奴等はいない。
どうやら周囲の不良達は東エリア、もしくは協定チームを相手にしているみたいだ。
ふとバイクの音がこっちに向かってきている。
身構える俺達だったけど、こっちにやって来たのは味方の協定チーム。
浅倉チームの不良数人が倉庫の明かりを見て、俺達がいるかどうか安否確認をしに来たようだ。
丁度良かった。女子達は彼等に任せよう。
夜風を胸いっぱいに吸い込んだ俺は、健太とイカバに向かって振り返る。
これから俺達男組はヨウ達のいる東エリアに向かわないと。人質を救出で終わり、じゃないんだ。
待っている、大事な仲間達が。舎兄が。ヨウが。
「いいのか?」
ふと健太から思わぬ言葉を向けられ、俺の方が面を食らう。
いいのか。それはどういう意味だ。
健太を凝視していた俺だけど、含みある眼差しに心中を察した。
健太は救出した彼女の傍にいてやらなくても良いのかと、訴えかけてきてくれるんだ。
救出したとはいえココロの気は落ち着いていないだろう。
それに俺達は切々に再会を願っていた。傍にいて再会をもっと喜ぶべきなんじゃないかと健太は気遣ってくれるんだ。