ハァハァっと肩で息をするココロは、トラウマに向かってザマーミロとばかりに舌を出す。
息を吹き返した古渡はココロの思わぬ反撃に血がの上ったのか、平手打ち返しを彼女にかました。
そして言う、携帯を返せと。
返すわけないと平手打ち返し返しをするココロは、鼻を鳴らし古渡の携帯を思い切り手摺の向こうに投げた。
此処の倉庫は中央が筒状になっているから、手摺を越えたら一階を見下ろせる。
ということは手摺向こうに投げられた携帯は必然的に一階に落ちるわけで?
カンッ、小さな物音が一階から聞こえてきた気がした。見事に携帯が一階に落ちたようだ。
「根暗めっ!」
馬乗りになってココロに襲い掛かる古渡は、なりふり構わず彼女の細く白い首に手を掛けた。
こんの馬鹿野郎! キャツはココロを殺す気か! 頭に血が上ったとしても、そりゃやっちゃなんねぇことだぞ巨乳さんよ!
「ココロ!」
不良を押さえながら叫ぶ俺の脇をすり抜けて、彼女の大ピンチを助ける救世主ひとり。
誰よりもハジメの仇を取りたがっていた弥生だ。
地を蹴って飛び蹴りを古渡の背中にお見舞い。
よって古渡の手がココロの首から離れた。
隙を逃さず、ココロはトラウマの体を押し返し、自力で古渡の下から脱出した。そして二人は肩を並べて古渡を見下ろす。
「ハジメの仇……取らせてもらうから」
「ケイさんやお友達を傷付けた貴方は絶対に許しません」
怒気を纏う二人に、チッと舌を鳴らす古渡はサッと体勢を整えて駆け出した。
「あ、待ちなさいよ!」
誰よりも早く弥生が古渡の後を追う。途中ハジメのキャップ帽を拾って。
ココロも後を追い駆けるけど、足の速さが……な。
いや努力は認めるよココロ。
古渡に平手なんて強いじゃん。
誰だよ自分のこと弱いとか卑下してたヤツ、なあココロ。
おっと、俺も女子達の喧嘩を傍観している場合じゃない。
ちょい空手ができるガタイの良い不良をどうにかしないと!
俺は敵と距離置くために上体を起こしてBダッシュ。
さあてどうする。
こいつを片付けるには普通に喧嘩に持ち込む、じゃあ勝てないぞ。何か手は無いか。何か手は。
目を配らせて相手から逃げていると、ふと壁際に連なった鎖が視界に飛び込んでくる。目で辿れば天井中央部に続いているようだ。
余った鎖部分が地上に向かって垂れ下がっている。
先端にはS状のフックがぶらんとぶら下がっていた。
多分機材を固定するためにフックがついてるのだろう。
フックに引っ掛けて、機材や荷物を固定するためのものかな。
長さ的に長いっちゃ長いけれど、普通にジャンプするだけじゃ届かない。
向こうの古びた手摺を踏み台にしたら手が届きそう。
うん、使えそうだな。一か八か、怖いけどやってみっか!
急いでS状のフックが垂れ下がっている真下へ駆ける。
「なっ、馬鹿圭太! お前っ、落ちるぞ!」
俺の行動を見た健太が止めに入ろうとするけど、もう遅い。馬鹿なことする自覚はあるけどこれっきゃないんだ!
ギシッと軋む今にも壊れそうな手摺に足を掛けると、フックを掴むために大ジャンプ。
足元には一階フロアが見えるけど、ははっ、絶対に下は見ないんだぜ!
俺は藁にも縋る気持ちでS状のフックを両手でキャッチする。
勢いづいた俺がフックを掴んだから、ギシギシと鎖は悲鳴を上げて左へと大きく揺れた。
限界まで左に揺れた後、元の状態に戻ろうと今度は鎖が右へと向いた。
振り子の原理で俺は勢い速度・加速度プラス、自分の蹴りをガタイの良い不良さまの右肩にめり込ませる。