構えを取られる前に不良の右小手を狙って角材を振り下ろす。
すると手から凶器のナイフがすっぽ抜けて地に転がる。
同時にココロの腕を引っ張って不良と距離を置かせる。
瞬く間の出来事にココロは目を見開いて状況把握に努めようとしているけれど、そんな暇もなく俺は彼女の背中を荒々しく強く押した。
ベタンとドハデに倒れる彼女は、
「ケイさん!」
すぐに上体を起こして俺を見上げてくる。
答えてやりたいけど、俺は相手の拳を角材で受け止めることで精一杯だ。
「逃げろっ、ココロ……此処からすぐに。弥生の下に行くんだ」
「ケイさん」
「迎えに来るの遅くなってごめん……後で沢山謝るからァアア?! ……わぁーお、嘘だろおい」
シュンッと振り下ろされた手刀を角材で受け止めたはいいけど、ポッキリと受け止めた部分から真っ二つ。
そういえば目前の不良はちょいとだけ空手を習っていましたね。
は、はは……笑えねぇってマジで! ほんとうにちょっとだけ空手を習ってた腕か?! ジョーダンじゃないぞ!
嘲笑するガタイの良い不良に、
「こりゃまた失礼」
てへっと舌を出した俺は急いで真っ二つに折れた片方を相手に投げ付けると、ココロの腕を取って地を蹴る。
縺れる足を懸命に動かす彼女を弥生の下に置いて、早くこの不良を片付けないと……しかしどうする。
相手はマジで強そうだぞ。
俺なんて瞬殺されそうだぞ。
一階にいるイカバや響子さんなら相手を伸せそうだけど、二人は二人で敵を片付けてくれているし。
汗が手の平に滲む。
手首を掴んでいるココロにそのことがバレているだろうけど、守ると決めたからには有言実行。
体を張って彼女を守らないと、守らないと! 考えろ、全力で勝てる糸口を見つけろ!
「一階の人数が少なくなっているみたい。ちょっと竜也に電話しよう」
ふと聞こえてくる古渡のヤーな台詞。
ヤバイ、古渡は援軍を呼ぶ気だな。五十嵐のところに戦力が偏っているみたいだからな。
向こうにどれくらい人がいるか分からないけど、数人でさえもこっちに来られたら俺達の不利は確定だぞ。
元々人数少ない上に手腕のない面子が三人、いや人質を助け出したから四人もいるんだ。イカバや響子さんだけじゃ対応しきれない。
それに幾ら響子さんが強いと言っても、やっぱ女性には変わらないからスタミナ切れする可能性だってある。
「駄目!」
古渡の動作に気付いた弥生が駆け出した。
だけど余裕の笑みで古渡は弥生から離れる。
そして彼女の前にはわりと喧嘩ができそうな不良が立ち塞いだ。
「あっらぁ何処から現れたの?」
引き攣り笑いを浮かべる弥生に容赦なく不良は拳を振り下ろす。
間一髪のところで健太が前に出て拳を両手の平で受け止めたから、どうにか弥生は助かったけど古渡は携帯を片手に俺達から距離を置いた。
ああくそっ、古渡の携帯を奪わないと厄介も厄介になるぞ!
でも俺はガタイの良い不良に追われているし、弥生や健太は別の不良で手がいっぱ「任せて下さい!」、突然俺の手を振り払ってココロが別の場所に駆け出した。
「ココロ?!」
頓狂な声を上げてしまうけど、彼女の考えが読めた俺は急いで彼女を狙うガタイの良い不良を相手にした。
そいつも彼女の考えが読めたのだろう。
邪魔しようとしたところを俺が横からタックルかまして一緒に倒れる。
余所でココロは、余裕ぶっこいて余所見しながら電話を掛けている古渡に捨て身タックル。
前触れも無い攻撃に古渡は驚愕の二文字を顔に貼り付かせていた。
俺等と同じようにその場で転倒した二人だけど、ココロは逸早く起き上がって古渡の手放した携帯を掴もうと手を伸ばした。
すると古渡はさせないとばかりにココロの髪を引っ掴んで手前に引く。
痛みに顔を顰めるココロは振り返って、自分のトラウマに向かってパンッ――! 平手打ちをかました。
予想外の展開に古渡は目を見開き、ココロは手を振り払って携帯を掴むとキッとトラウマを睨んだ。
「私のお友達をこれ以上、傷付けさせません! 貴方に散々苛められてきましたし、その度にお友達を失いました。今でも貴方のことは怖い。
だけど、それ以上にお友達が傷付くのは見てられないっ!
よくもハジメさんを……沢山のお友達を……何よりケイさんを!
私の好きな人を利用しようとしたことは絶対に許しません。キスなんて言語道断です! 未遂でも目を瞑れません!
だって私は誰よりもケイさんのことが好きなんですから―――ッ!」
ココロのダイダイダイ大告白が倉庫一杯に響き渡る。
不本意ながらも赤面してしまった。
いや、だってほら、な、真面目な場面でガチ告白をされてみろって。
どんだけ彼女が俺のこと想ってくれているのか、マジマジと感じさせてくれるじゃんかよ。
どうしよう、今すぐにでも彼女を抱き締めたいとか思う、馬鹿な俺がいるんだけど。喧嘩もまだ終わっていないのにさ。