すり足で構えをとりつつも、ココロの安否が気になって仕方が無い俺はどうも相手に集中できず。隙を突かれて向こうが踏み込んできた。
チッ、俺は不良の拳や蹴りを避けたり角材で受け止めるしか成す術がない。
「ケイさん!」
押され気味の俺に、ココロが声音を張ってくる。
それはまるで声援を送られているよう。
ココロに名前を呼ばれているんだ。絶対負けたくない。絶対に。
「はぁはぁっ、追いついた……ンの阿呆圭太! ひとりで突っ走ってるんじゃねえよ! どんだけカッコつけたいんだ!」
怒鳴り声が聞こえた。顔を見ずとも分かる。
頼もしい助っ人かどうかは置いておいて味方が増えたようだ。
健太の声の後、「あああっ!」弥生の金切り声も聞こえた。
念願の古渡を発見して思わず声を出しちまったというところだろう。
ココロの状況下を見た弥生はキッと古渡を睨む。
「あんた達サイッテー!」
盛大な悪態をついて、ココロを解放するよう唸っていた。
「私の友達になんてことしてくれるの? ハジメといい、ココロといい、あーんただけは絶対許してやんない!」
「んー? あら、貴方。道具になってくれなかった男の彼女。片思いだっけ? 根暗ココロとつるんでいることといい、ヘボ女ね」
「るっさい! 片思いとでもヘボ女とでも何とでも言われていい!
けどハジメとココロのことは絶対に……絶対に友達として、片恋を寄せている代表として、仇を取ってやるんだから!
それにアンタが思うほどココロ、弱くないよ!
ね、ココロ! ココロはまだクソ女を怖がってるみたいだけど、ずーっとこいつに怖じているばっかりでいいの?
駄目でしょ。ココロは小中時代と違って変われたじゃんか!
こうやって私や響子、ヨウ達が一杯心配している。みーんなココロを心配して闘っているんだから、ココロも闘わないと!
胸を張って言って良いよ、ココロは苑田弥生の友達だって。三ヶ森響子の友達で姉分だって。荒川庸一達のチームメートでみんな友達だって。
何より、田山圭太の女だって言ってやれば良いじゃん!
胸を張って言ってやれば良いじゃん! そうやって胸を張って言っても誰も離れて行かないよ!
どう思っているの? 皆のことやケイのこと!
お腹の底から叫んでやればいいよ!
古渡に負けない気持ちで好きだって! 古渡に彼氏は渡してやるもんかって!」
ただ零れんばかりに大きく瞠目するココロ。
「ムリムリ」
根暗のココロに何を言っても、モジモジオドオドオロオロするだけだと古渡は笑声を漏らす。
そうやって月日を過ごしてきた女だから周囲から疎ましく思われ、距離を置かれ、鬱陶しいと思われてきた。
根暗に何を言っても無駄だって性悪女は目を細めて口角をつり上げてくる。
「そんなことない! アンタは今のココロを知らないからそんなことが言えるんだよ! ココロを見くびらないで!」
本当にそうだ。
古渡は今のココロを知らない。
同じように俺は過去の彼女を知らない。
知ったとしても評価を下げるつもりはない。
だって俺は今の彼女を好きになったんだから。
「ココロは返してもらうぞ。彼女は俺の女だ!」
対峙している不良を無視し、角材を握りなおして俺は声音を張る。
「行ってケイ!」
弥生はハジメの被っていたキャップ帽を投げ飛ばす。標的(ターゲット)はココロを拘束している不良の顔面。
ポフッ、顔にキャップ帽が当たり、ちゃちい攻撃に軽くかぶりを振る不良。
その一瞬の隙を見た俺は対峙していた不良に背を向けて駆ける。
当然、相手は追ってくるわけだけど、健太が俺を庇うように敵を相手にしてくれたから一直線にココロの下に向かうことができた。