ニッと笑う古渡に俺も愛想笑い。
うわ……どうして目前の性悪女の考えが容易に読めるんですかね。俺はエスパーだったのかなぁ。
少し移動して古渡が俺の横についた。頬に手を添えられる。
軽くかぶりを振って手を振り払うけど意味無し。
何をしようとしているのか想像がつくからヤになっちまう。
本当の疑問に思うけど、俺と遊んで楽しいか? なあ?
今から彼女の目の前でキスしますよ、オーラを出しちゃってからくさもう。
チラッと視界端にココロの姿が飛び込んでくる。
完全に古渡の行為と彼女自身の存在に怯え切っている彼女は、目で判断できるほど震えて下唇を噛み締めていた。
このままじゃココロが傷付く。
彼女は怯えていた。
古渡の手によって友達が失った。
また誰かを失うんじゃないかと泣いていた。
安心しろってココロ。
俺は自他共に浮気は認めない派。
ついでにココロを助けに来たのに、結果的に傷付けるのも気分的に宜しくない。
こいつとキスをするくらいなら、不良の靴裏とキスしてやらぁ!
腕の力を抜いた。
ガックンと腕が折り畳まれると同時に角材プラス、相手の足が腹部に直撃。
二重のダメージに身悶えしつつ、俺は角材を不良の足下から引き抜いて、握り締めたままブンッと横に払う。
すると反射的に、古渡はその場から後退。彼女にザマーミロと笑ってみせた。
「痛みを選んだわけ?」
馬鹿な男だと呆れ果てている性悪女に、「その方がマシ」鼻を鳴らしてやった。
「アンタにキスされるくらいなら、是非とも踏まれることを選ぶね。俺って超一途なんで。あ、Mじゃないってことだけは補足しておくよ、ココロッ、もうちょい我慢な!」
不良に踏まれながらも、口だけは一丁前にカッコイイことを言ってみせる。
カッコつけ田山と呼ばれてもいい。彼女を安心させてやりたいじゃないか。
小中時代に辛い思いをした結果、卑屈思考を持ってしまった彼女。
でも自分になかなか自信を持てない彼女のことを、馬鹿みたいに好きだと思う男がいる。それを知っておいて欲しいじゃないか。
ココロが人質になり、離れ離れになってしまった俺は気が気じゃなかった。
好きだからこそ、冷静を欠いてばかりで仲間達にも迷惑を掛けた。
弱いところを見せては励ましてもらっていた。
瞠目する彼女に綻ぶ。
ココロには一番に言いたい事があるんだ。
クッキー食べたぞ、美味かったぞ、また作ってなって……言いたい事が。
「その強気、いつまで続くかな?」
俺達の気持ちを引き裂くように冷笑する古渡は、根暗ココロを好きになるなんて見る目が無いと悪態をついた後に俺を踏んでいる不良にアイコンタクト。
頷く不良は足を浮かして、素早く俺の体を蹴り飛ばした。向こうに体を倒してしまう。
「ダッセェ」
口先ばっかじゃんかよと自分に舌打ち。カッコはつけたけど、カッコつけだけで終わるなんてダサイにも程がある。
そりゃ俺にはさ、手腕もないし喧嘩も大嫌いで苦手中の苦手。
チームの“足”として働いているから、いつもは非戦闘員で凡人くんだ。
勝算はあるのかと聞かれたら、いやちょい無理があるって即答する。
でも今はヤらなきゃなんないんだよ。
彼女に真正面から守ると言ったんだから。
ボロボロのダサい姿になっても、男田山圭太、腹括ってヤってやらぁ。
手放した角材を拾って立ち上がる俺は、構えをとってブンと一振り。
余裕のよっちゃんで俺を見据えてくる不良は相手が本気で掛かってこれないことを察している。
そう、下手なことすりゃココロの首に突きつけられているナイフが彼女の喉に食い込むことになる。
どうする俺、どう切り抜ける俺、このピンチ……どう対処する?