階段から降りてくる不良にも臆せず、寧ろ邪魔だとばかりに捨て身のタックル。
敵と一緒に転倒しても、素早く起き上がって相手を放置。一心不乱に階段を上った。
視界に飛び込んでくる二階フロアにも不良が数人いるけど、ざっと見たかんじは三人か。
わりと少ないな。
日賀野の言うように戦力を自分中心に固めているのかもしれないな。
息をつく間もなく俺は古渡のいる場所、否、ココロが拘束されているまで駆けた。
襲ってくる不良の手を掻い潜り、壁際に転がっている角材を拾って相手の脇腹に突きをお見舞い。
怯んだ隙を見逃さず、鳩尾に角材の先端をめり込ませて脇をすり抜けた。
そして辿り着くココロのいる二階フロアの一角。
角材を握り締め、肩で息をする俺を余裕綽々な目で見てくる古渡は、仁王立ちしている地味野郎に向かってお疲れさんと軽い口振りでご挨拶してきた。
へっ、なあにがお疲れさんだ、性悪女め。
俺やココロ、弥生にハジメを、特にココロを散々弄びやがって。見下しやがって。嘲笑いやがって!
ギッと相手を睨み握り拳を作ってわなわなと震える俺は「ココロを返せ!」、声帯を痛める勢いで怒声を張った。
自分でもびっくりするくらい憤った声が辺りに響き渡る。
声に逸早く反応したのは隅で不良に拘束されているココロ。
「ケイさん!」
名前を呼んで今にも駆け出しそうな彼女を一瞥、改めて古渡を見据えた。
「返せ。今すぐココロを解放しろ」
唸る俺にチッチッチと指を振って返すわけないじゃんとキャツは鼻で笑った。
馬鹿じゃないの、ご丁寧に悪態を付け足して。
返して欲しければ自力で奪い返してみせてよ、古渡は俺に挑発と怒りを煽る。
ああくそっ、女じゃなかったらな、お前なんて所構わず殴り飛ばしているところだぞ。
こんな時でも女を意識してやる俺、超ヤサシーよな。
いや男のサガかもしれない。相手は女、本気で手を出すには無理がある……ってな。
まるで俺の心中を見透かしているみたいに口角をつり上げて、古渡は背後の手摺に腰掛けて言う。
「まあ、根暗ココロを解放してあげなくもないけどねー? 勿論タダってわけじゃないよ? 舎弟くーん、私とやり取りした条件覚えているー?」
途端にココロがサーッと青褪める。
逆に俺は古渡の言葉を冷静に受け止め、
「身売りの件か?」
確認するために聞き返す。
ポンピン、せせら笑う古渡はさも楽しそうに口笛を吹いた。
五十嵐とつるんでるだけあってすこぶる性格が悪いな、この女。
「冗談言うな」
条件を突っ返して願い下げだと一蹴。
俺にはなぁ、ココロという大事な彼女がいるんだぞ。
巨乳の性悪女よりも断然ココロを選ぶね、ああ選ぶね。
例え迫られたとしても土下座してごめんなさいと言ってやらぁ!
俺、古渡が思うほど軽い男じゃないんだぜ!
そ……そりゃ胸はでけぇな……とかは片隅現在進行形で思っているけど、べつに胸を重視しているわけじゃないんだからな!
「俺みたいな地味くんがお好みか? 絶対違うだろ、ココロを甚振るために意地の悪い条件を突き出してきやがってさ。俺はアンタと付き合う気なんてない」
「賢くなった方が良いと思うんだけどな。は~い、ココロの首に注目」
なんだって?
俺は慌ててココロに視線を向ける。
ひゅっ……と身を硬直させているココロの首には鋭利ある折り畳みナイフ。
刃先が彼女の柔らかな喉元に食い込もうとしてっ、ま、ま、マジでざけるなってっ! 何処のドラマの絶体絶命シーンだよ!
俺達は所詮学生なんだぞ。
こんな場面、警察にでもならない限り滅多なことじゃ遭えないだろう! いや遭いたくもないけどさ!