「響子やイカバもいるしね、きっと助けられるよ!」
「ダァアアア! 伊庭だ伊庭! なんでイカバで荒川チームは自分の名前通ってるんだよぉおおお! 超失礼じゃんかよぉお!」
自分は伊庭なのだと地団太を踏むイカバ。
うーっわ、タコ沢とメチャクチャキャラが被るんだけど……名前に過剰反応するところとかな。
さすがタコ沢とイカタコ合戦してるだけあるよなっ、わわわっ?!
突然イカバがぬっと俺の前に現れて、胸倉を鷲掴み。ちょ、なんでいきなりこんな事態に?!!!
「だーれがイカタコ合戦をしているだって? ヨウの舎弟くーん?」
し、しまった。
俺としたことが、口が滑ってしまったようだ。
「ははっ、ジョーダン、マイケルジョーダン。圭太がジョークを言っているんで、圭太ジョーダン! ジョーダンを言って友好を深めよう。つまり仲良くしましょうぜ、イカバさん」
「伊庭だぁああああ!」
「シーッ! こ、声が大きいですって!」
人差し指を立てる俺を睨むイカバは、「ムカつくなぁ」むにゅっと頬を抓ってくる。
誤魔化し笑いを浮かべる俺は失礼しましたとばかりにてへっと舌を出す。
可愛らしく舌を出す。結果、相手の怒りを煽って拳骨を頂いた。
頭を押さえてしゃがみ込む俺に、フンッとイカバは鼻を鳴らす。当然の報いだとばかりに。
そしたら弥生が異議ありだとばかりにイカバを指差した。
「ちょーっと今のところは笑うところ。イカバ、空気読みなさいよ。タコ沢といい、イカバといい、空気を和ませようとするケイの気遣いが分からないわけ?!」
「ぜぇえってちげえだろ!」
ハイ、イカバさん。ご尤もです。
ただ単に調子乗って、というかウッカリかまして口を滑らせてしまっただけです。
空気を和ませようとなんてそんなそんな。阿呆田山でスンマソです。
「ったく、コイツがケンのつるんでいたダチとはな。ほんとうに仲良かったのか? ケン。お前と違って、えらい馬鹿オーラがムンムン醸しだされているんだけど」
「あー圭太……じゃないケイは馬鹿みたいに調子乗りですから」
カチン。
ちょ、自分のことを棚に上げて俺だけ調子乗りと称すのはどうかと思いますよ。健太さん。
しかも馬鹿? へぇええっ、俺に馬鹿言っちゃう? だったら、俺だって言いたいことあるんだけど。
「随分お利口さんになったみたいデスネ、健太さん。中学時代は女子の着替えを覗こうとしていた悪のくせに」
「んなッ! お、おれそんなことしたことねぇって!」
カチリ、裏口の扉を解除した健太は心外だとばかりに素っ頓狂な声を出して立ち上がった。
ふーんと俺はそっぽ向いて頭の後ろで腕を組む。
「でも『ひんぬーが萌え』とか言っていたじゃん。
巨乳じゃなくて敢えて貧乳萌えって叫んでたくせに。何故貧乳萌えか30文字以内で答えてみろ!」
「なんだと? 萌えを30文字以内でおさめろとは酷だぞ圭太。好きなものを30文字以内でおさめられるほど、おれの萌えは浅くないんだ。
せめて400文字にしろ! 400字詰原稿用紙一枚分に纏めてきてやるから!」
「よし、宿題だぞ! エロスケベ野郎の健太くん!」
「男は誰でもエロくスケベな色欲の塊だと思いますよセンセイ! ……あ……しま……」
ついつい俺に乗せられた健太はイカバのポカーン顔に、「今のは違うんです!」アタフタと自分の素を隠そうとする。
「ケンって話に聞いてたけど。本当はそういう性格だったんだな」
イカバはしみじみと納得。
だから違うのだと赤面する健太に、ザマーミロと陰で舌を出す。
自分だけ優等生になろうとするから悪いんだぞ。
お前も立派な調子乗り(元)ジミニャーノの仲間なんだからな。
一連のやり取りに女子の白眼視が跳んできたような気もするけど、白けた目より健太だよな。うん、すっきりした。
焦っている健太を余所に、俺は裏口の扉を開けて中に侵入。
中は外以上に薄暗くて視界が悪い。でも差し込む半月の光で、どうにか状況が判断できそうだな。
先陣切って中に入る俺の後から、響子さん、弥生、イカバに健太が中へと侵入。
どうやら“港倉庫街”の倉庫の大半は二階・三階建の造りのようだ。上に続く金属階段を発見する。此処は二階建みたいだな。
一階か、はたまた二階か。
ココロは一体何処に拘束されているんだ。
早く彼女の安否が知りたい。早く、ココロに会いたい。
その強い気持ちはきっと姉分の響子さんも同じだと思う。切迫した表情が窺える。
俺もおんなじ顔をしているんだろうな。