一台を撒き、来た道を戻って小道を出たおかげで、もう一台とは遭遇せずに済んだ俺達は急いで東から北エリアに向かう。

北は東エリアと違って無駄に倉庫数が多い。


もしも人質が軟禁されているとしたら、ここら一帯が可能性的に高いだろうな。


ココロはもう救出されたかな。


あー駄目だ駄目だ、彼女のことを考えるとヘタレ田山が出てくる。

心配故にポカを犯しそうで怖い!


自分の仕事に集中しないと。


彼女なら、ココロなら大丈夫。

仲間達がきっと助けてくれている筈だ。


信じることも大事な勇気だぞ俺。


日賀野だって帆奈美さん取られても、平然を装っているじゃないか。

きっと内心は大荒れなんだろうけどさ。


それでも表に出さない日賀野って凄いと思うよ。


似た立場にいる俺からしてみれば、日賀野は強い。

喧嘩とは別の強さを持っている。

羨望を抱くくらい日賀野は芯が強いよな。


俺も一抹くらいその強さが欲しいなぁ。


性悪な性格は一抹もいらねぇけど。


なるべく倉庫影に身を隠すようにチャリをかっ飛ばしていると、日賀野の携帯が鳴る。


「俺だ」


手早く携帯を取り出して電話に出る日賀野、お相手は魚住らしい。アキラという固有名詞が口から飛び出していた。


淡々と会話を交わした後、「了解」日賀野はシニカルに笑って電話を切った。


こういう時、日賀野がお仲間でホント良かったと思う。

敵だったらこの皮肉った笑みを目の当たりにした瞬間、内心絶叫の嵐だぜ俺。


「東エリアで荒川達がドンチャンしているらしい。ということは五十嵐は東エリアにいる。

これである程度把握ができた。南と西は見張りの戦力しか置いてねぇ。
此処、北エリアは、見る限り両協定チームがドンチャンしてやがる。協定チームたちの戦場っつっても過言じゃねえ。

東に五十嵐がいるせいで偏った戦力が東に集中してやがる。荒川達がドンチャンしてくれているからだろうな。

同時並行で五十嵐は必要以上に、俺達の動きを懸念してやがる。


よっぽど『漁夫の利』作戦に苦い思いを噛み締めたんだろうな。


満遍なく戦力を配置すりゃいいものを、自分の居るところに戦力を固めてやがる。それが揚げ足取られたりするんだがな。

協定チームを連れて行く。偏った力は隙だらけだ」


「え、でも。まだ協定チームは向こうでドンパチしていますけど」


ブレーキを掛けた俺は、倉庫影に身を隠しながら向こうを指差す。

バイクのライト達が辺りを照らしている暗闇の向こうでは、まだ協定チームと敵の協定チームがドンパチドンパチ。


敵の方が数的に多そうなんだけど。


俺の素朴な疑問に、「安心しろ」数はともかく実力ではこっちが上回っている。

それにこっちが手を加えれば、随分向こうの手も空くだろう。


言うや否や日賀野はブレザーから連なった赤い筒の束を取り出す。


え、ナニソレ?

なんか見るからに物騒なもの、っぽいような。


「玉城兄弟お気に入りの代物だ。プレインボーイも投げてみるか? 爆竹」

「ば……ばくちっ?! だ、だけどそれっ、投げたりしたら味方もっ」


「聴覚を攻めて怯ませるだけだ。それに向こうでドンパチしているのは俺達の協定チーム。爆竹はお手の物だって知っている」


爆竹使用=日賀野チームという図式ができるらしい。


もしかしたら浅倉さん達のチームがいるかもしれないのに、日賀野は周りの状況を見て爆竹を使用すると楽しそうに舌なめずり。


爆竹の音でビビったところを協定達が伸してくれるだろうと得意げに語る。


おいおい……本当に大丈夫かよ。その物騒な作戦。


訝しげな眼を向ける俺に、


「いいから行くぞ」


当然のように命令してくる。成功するに決まっているだろ、と補足して。


その自信はどこから来るんだか。

責任はぜーんぶ目前のキャツに押し付けることにして、日賀野兄貴の“足”としてせいぜい頑張らせて頂きます。