「こりゃ来るかもしれねぇな。プレインボーイ、今走っている大体の場所は?」
「“港倉庫街”西エリアです」
「西?」
「ああ、すみません。地形を頭に叩き込む時、勝手に東西南北エリアに分けたんです。
俺達が入って来た正門は南の位置に属しています。
そこから時計回りに西、北、東と“港倉庫街”を回れば最短ルートになります。
ここら一帯はコンテナやドラム缶等が多く積まれているエリアっぽいですよ。
エリア的には一番身を隠しやすい場所でもありますね。
バイク達にとってはあまり近寄りたくないエリアでもあります。
ほら、バイクじゃちょっと窮屈であろう細い道が多々存在していますし。
バイクだったらやっぱり大きな道を爽快に走りたいですしね。
一方で俺達にとっては有利な地形です。説明せずとも分かりますよね」
「なるほどな。ということは貴様の言う西に属するエリアはあまり人がいねぇことになる。
向こうもバイク移動が多いだろうし、こういう入り組んだエリアはバイクじゃ不利だしな。エリアの面積が一番広いところは?」
「反対側、東エリアです」
「オーケー。東エリアをバイク組に詮索させる。方位的にもアキラ達が近いだろうしな……ん?」
日賀野が後ろを振り返る。
軽く右肩を叩いて、速度を上げろと指示を促してくる。
鼓膜を振動してくる明確なエンジン音に、俺は振り返らずともどういう事態か容易に呑み込めた。
「数は?」
「二台」
淡々とした会話を交わし、俺はハンドルを大きく切って小道に逃げ込んだ。
ギリギリ小道はバイクも入れるせいか、一台が俺達の後を追って来る。
でも追っ手は二台、てことは一台はどっか行っちまったってことで……そういうことか!
「そうはさせるか!」
俺は小道の小道に逃げ込んで、どうにか難を逃れようとする。
悪知恵だけは極端に働く日賀野だから、俺の一台詞で事に気付いたのだろう。
「挟み撃ちか。ったく、俺達と同じ手を使うんじゃねえよ」
舌を鳴らす日賀野は俺に向こうの手に落ちないよう命令してくる。
そんなこと言われなくても分かっているっつーの。
ここらの道は入り組んでいるから、知恵を使えば振り切れる筈だ。
ただ問題は背後の追っ手だ。
所詮チャリとバイク、距離はドンドン縮んでいく。
このままじゃ挟み撃ちの前に後ろの奴等に……速度じゃ絶対敵わない。
急ブレーキを掛けても向こうは角材らしきものを持っているらしいから、高さ的に乗客の日賀野がヤラれる。
どうする、どうすればいい。こうしている間にも、距離が数秒単位で詰め寄られていく。
「仕方がねぇ。いっぺん降りる。いいかプレインボーイ、合図で道端に寄せろ。俺が降りた後はすぐ拾え。ヘマしたらどーなるか分かっているな?」
「はい?」
目を点にする俺に、
「カウントは3だ」
愚図愚図するなと指揮官は不機嫌に鼻を鳴らす。
ちょ、ちょちょちょ、なんか容易に理解できたけどっ……あんたそれ、無謀ってヤツじゃ「3」
ああもうっあんたもヨウに似て「2」
無鉄砲なところあるって!
急いでチャリのハンドルを握り直し、「1」の合図で道端にチャリを寄せた。
瞬間、日賀野は道の隅っこに向かって飛び下り、勢い余ってうつ伏せ状態に。
俺は俺で日賀野が飛び下りた後、急ブレーキを掛けてチャリを倒すよう体重を右に掛けて道端にダイブ。
見事にチャリは倒れたけど、俺は間一髪で地面に着地。身を屈ましてバイクが突っ切って行くのを見送った。
バイクは方向転換に些少時間が掛かる。
急いでチャリに跨った俺は上体を起こしている日賀野を拾って、さっきまで走っていた道を戻り始めた。
嗚呼、この一連の動作だけで寿命が三年縮まるかと思ったよ。
再び日賀野をチャリに乗せて小道を出た俺は、彼に無茶苦茶だと本音をぶつける。
「こういうことは、よーく話し合ってから実行して下さい。突発的過ぎて寿命が縮まるかと思いました」
「弱ぇ寿命だな」
るっせぇよ! 誰のせいで肝がビビッたと思うんだ!
相談もなしにイキナリ作戦決行とかナンセンスだろナンセンス! お前、チームプレイって知っているか?
俺様的口調でいきなり「降りる」、次に「降りた後はすぐ拾え」、極め付けに「ヘマしたらどーなるか分かってるな?」と、脅し。
最悪のチームプレイだぞおい。
だけど日賀野はさも当たり前のように言うんだ。
「俺がするっつったらするんだよ。作戦は成功したんだ。ウダウダ言っているんじゃねえ」
この無鉄砲さと、我の強さは舎兄にすこぶる似ている。
前にワタルさんが「ヨウちゃんとヤマトちゃんは根っこが似ている」と言っていたけど、まさしくそのとおりだ。
無茶振りと無鉄砲さに両手を挙げたくなったね、マジで。
俺の高校時代はこういう我の強い不良に振り回される運命なのかも。
残り二年もこんな我の強い不良に振り回されると思うと、溜息しか出ないよな。あーあ俺って運のない奴。