青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




先回りをしたおかげで四つ角交差点に差し掛かった俺達の前に逃げて来る仲間達、そして向こうチームのバイクがやって来た。


「寄せてくれ」


ヨウのご命令を忠実に聞く俺は、ちょいと歩道から路面に出て境界線ぎりぎりを走る。

エンジン音で声は掻き消えるから、ヨウは指でニケツしてバイクの後ろに乗っているキヨタに指示。その指のサインはヨウが作り上げた合図。


脇道に入って撒け、集合場所はあらかじめ設定していた場所だと指示している。


幸いな事に、街はネオンで満ちていた。

指示する指はキヨタの目に飛び込んでくれる。


こっちに伝わるようコクコクと大きく頷くキヨタは運転しているシズの右肩を叩いた。


するとシズがバイクのホーンを鳴らし、他の奴等に合図。了解だとばかりにホーンがやまびこした。


「うっし」


ヨウは俺に歩道にチャリを戻すよう頼んで、集合場所に向かおうと肩を握り直してくる。


頷く俺は、一旦歩道に乗り上げると急ブレーキを掛けてハンドルを切った。


向かうは俺達のたむろ場。

あの倉庫は危険だけど臨時避難所くらいにはなるだろうということで、俺達はそこを避難所に指定している。


何かあればたむろ場に飛び込むシステムを作っているんだ。


たむろ場までの道は俺にとって庭みたいなもの。


俺は誰よりも早く到着するために、追っ手を振り切りながらペダルを漕いだ。ただただ夜風に乗って、必死にチャリを漕いだ。



さほど時間も掛からず俺とヨウは一番乗りでたむろ場に到着。


チャリを倉庫内まで持って行き、薄暗い倉庫の明かりを付けて他の皆が来るのを待つ。


程なくしてバイク組の皆も無事にたむろ場に到着した。


あー良かった良かった、になれば良かったんだけど……残念なことにオマケもついてきた。


そう一緒に逃げてい日賀野チーム。

どうやら追っ手は撒けても向こうチームは撒けなかったみたいだ。


次々にバイクが飛び込んでくる。


人様のたむろ場に対して無遠慮に入ってくる日賀野達は、バイクに降りるや否やヒントの紙切れを渡すよう睨んできた。


仲間を助けたい気持ちは同じだから、俺達もバイクを降りてガンを飛ばし拒絶。再び一触即発雰囲気が到来した。


だけど、ちょい両チームのリーダーの雰囲気が違う。

ガンを飛ばしているんだけど、何やら互いの本心を探りあうような眼を飛ばして口を閉ざしていた。不意に日賀野が口を開く。


「どーあっても……ヒントを渡す気にはならねぇんだな、荒川」

「ああ。俺達も必死なんだよ。テメェ等と一緒でな。今の俺達の目的はテメェ等じゃねぇ……五十嵐だ。できることならこの衝突は避けてぇ」


「まったくもって不本意だが同意見だ。このまま衝突すりゃどーなるか馬鹿でも分かる。このままじゃ帆奈美も……チッ、ねぇなマジで」


「ああくそっ」日賀野が盛大に舌を鳴らした。


ふてぶてしくヨウから目を逸らして仲間内に声を掛けると、たむろ場にいる仲間に連絡を取るよう命令。


今すぐ仲間を此処に集わせるよう告げていた。

向こうと同じ動作をヨウもしてくるもんだから、チームメートの俺等はちょっと困惑。


でもすぐにリーダー達の考えが読めたから、黙って指示に従った。従う他なかったんだ。


指示から数十分後、各々チームメートが此処倉庫という名のたむろ場にやって来る。

向こうのチームを見る余裕は無いのだけど、俺達のチームからは情報収集に行っていた弥生や響子さん。

たむろ場で待機していたハジメは利二に介抱されながら、倉庫内に足を踏み込んできた。


全員が揃うとヨウはチームメートを集合させて、


「テメェ等の意見を聞きたい」


率直に物申す。

破れたヒントの切れっ端を手の平に転がし、低いトーンで話を切り出した。




「今、ヒントは俺とヤマトが半分ずつ持っている。奪おうと思えば奪うこともできるが……俺達の怪我は完治してねぇ。
ただでさえ不利なんだ。狡い手を使う五十嵐相手に怪我なんざしてられねぇ。此処までは分かるな?」



俺達は小さく頷く。


「続けるぞ」


ヨウは切れっ端を握り締めて一人ひとりの顔に視線を投げた。


「本来の目的は奴等を潰すことだ。今ここでチームのプライドを懸けた喧嘩もできる。

けど状況が状況だ。
チームのプライドじゃなく、チームの仲間のために別の道を取ることもできる。特に中学時代の因縁を持つ奴等に聞きたい。

どっちがいい? プライドか、仲間か。
これは個人的な意見だ。誰も咎める権利なんざねぇ。正直に答えてくれ」


静かに質問してくるヨウに、高校から絡み始めた俺やキヨタ、タコ沢に利二に弥生は何も言うことはない。言えない。


因縁のない俺達は、謂わずも……もう答えが決まっているんだ。


だけど中学に因縁を持つ面子は一口に「これだ」とは決められないと思う。


決められないよな。思い思いのこともあるだろうし。

こればっかしは途中参加した俺達じゃ答えを出すことはできない。


「分かり切ったことを聞くんだな……リーダー。お前らしくもない。思い付きが十八番なお前なら……仲間のため……意地でも意見を押し通すくせに」


眠気を吹っ飛ばして、シズの一笑を零す。


皆はもう答えは決まっていたみたいだ。


仕方が無さそうに溜息をつく響子さんは「可愛い妹分を取るに決まっているだろう」、どっちでもいいとばかりにワタルさんはニヤニヤ、オモシロソーなんて言っている。


「しゃーないですよね!」


不機嫌に腕組みしているモト、


「上手くいくとイイケド」


苦笑しているハジメ、それにヨウ自身も苛立ちを募らせて「あ゛ー」とか唸っている。


でも皆、答えは決まっているんだよな。


現状を目の当たりにして、肌で体感して、タイムリミットを気にして……今、何をすべきか、ナニが大事か分かっちまっているんだよな。


皆、俺にとって大事な仲間だ。迷わず仲間を選択してくれる……大事な……。


誰も何も言わないその結論。


謂わずも理解しているヨウは、ほんとうのほんとうにイヤーな顔をしつつ向こうチームに視線を飛ばす。


丁度向こうも話に区切りが付いたみたいで、ヤーな顔をした日賀野が溜息をついて、また溜息をついて、んでもって「最悪」悪態を付いて歩み出す。


両者十メートルくらい歩んで立ち止まると、まず睨んで、次に大きくも大袈裟に溜息。


「アリエネェ」

「黒歴史追加だ」


本音を呟いた後、視線を戻して舌を鳴らし合った。


刹那、地を蹴ってヨウに日賀野に向かって拳を振るう。


受け流す日賀野はヨウに膝蹴りをお見舞いしようとするけれど、我等がリーダーはそれを両掌で受け止めて見せた。


いきなり勃発する喧嘩だけど、喧嘩じゃないと分かっているから両チームはリーダー達を止めない。止めないんだ。


「条件その1! 少しでも俺の仲間に何かしやがったら、テメェを真っ先にシメる。いいな、ハイエナ!」


ふわっと赤メッシュの入った金髪を風に靡かせて、相手の腹部に肘打ちするヨウ。


「条件その2。和解するわけじゃねぇ。一度っきりだけあの頃に戻ってやる。不本意だが状況が状況だからな。いいか、勘違いはするな単細胞」


びゅんっと左足を振り、青メッシュの入った黒髪を宙に舞わせて、相手の背中に蹴りを入れる日賀野。


「条件その3。俺達は負けの喧嘩にもゲームにも興味はねぇ!」


闘志を剥き出しているような赤々としたメッシュが動きに揺れ、


「少しでも足手纏いなことしやがったら容赦しねぇ」


秘めた闘志を表しているような青々としたメッシュが大きく宙に舞い、


「ヤマト! 組むからにはぜってぇ」

「勝つ気でいろ。荒川!」


パンッ、互いの利き手拳を受け止めてガンを飛ばし合うリーダー二人。





それは中学時代以来、そして俺にとって初めて条件付き協定が成立した瞬間を目にする。


グループだった頃からいがみ合い、憎み合い、チーム結成後。本格的に潰し合いをしていた両チーム。


そのチームが亀裂を乗り越えて協定を結ぶ。


五十嵐を潰すまでという短いスパンではあるけれど、確かに対峙してしていたチームが一つになった。


誰が予想をしていただろう?


こんな未来。こんな展開。こんな光景。


リーダー二人はバッと相手の手を振り払って後ろに飛躍。


一旦距離を取ると、一呼吸置いて持っていたヒントの切れっ端を突き出した。


クシャッと曲がった切れっ端を突き出して、荒々しくもぞんざいに重ね合わせる。

そっと書かれていた文字を読み上げ、二人はチームメートに聞こえるよう声を出した。


五十嵐が俺等に出したヒントは『漁夫因縁』変な四字熟語だけど、中学時代に関わっているヨウや日賀野その他不良には一発で分かったらしい。


俺も薄々とは分かったよ。

漁夫は『漁夫の利』の略語、つまりヨウ達が使った『漁夫の利』作戦のこと。

そして因縁はその作戦が使われた場所のこと。


そう、五十嵐は決着の場所として。



「ケッ、因縁の場所でケリを着けようってか」


「ッハ、随分と最高のショーにしてぇようだな。自分の墓をまたあの場所……“港倉庫街”を選ぶとはな。五十嵐」



不敵に笑うヨウと日賀野、その笑みはまさしく勝機に満ちていた。




始まる。


中学時代に一つのグループとして動いていた荒川庸一と日賀野大和が手を結んだ反撃が。

これまでにない力で五十嵐竜也に喧嘩を売る、二つチーム合わさった反撃が始まる。


⇒#08



72ゲーム、現在40時間経過。タイムリミットまで、32時間。


某マンション一室にて。



(今……朝の十時、か。二日、此処で過ごしたけど……ケイさん……皆さん……どうしているだろう)



アナログ盤の腕時計を見つめ、ココロは目を閉じて吐息を零す。


祖父母に無断外泊しているが、二人は心配していないだろうか。


きっと姉分が上手く言い回してくれているだろうけれど、それでも不安を払拭することはできない。


嗚呼、大体どうしてこんなことになったのだろう。


怖じを抱いてブルブルと身を震わせているココロは疑問を抱いて仕方が無かった。


あの日、あの朝、あの瞬間、自分はただ好きな人に手作りクッキーを手渡したい一心で放課後を待ち望んでいた。


それだけだった筈なのに……ナニをどうすればこんな目に、人質なんて惨め役目を買わなければいけないのだろうか。


早く此処から逃げ出さないと皆が心配している。

キュッと口を結び、がらんと物のない洋風の一室の四隅で身を震わせた。

畏怖を抱いている場合じゃない。

分かってはいるのだけれど。


災難は突然だった。


バス停でバスを待っていたあの日、背後から忍び寄って来た不良達に囲まれ、見知らぬマンションに引き込まれ軟禁。

トイレやシャワーを浴びる以外は殺風景な一室に押し込められ、時間を過ごすよう強要されている。


寝る場所も此処、時間を潰すのも此処、逃げ出したいが扉の向こうではガタイの良い不良が見張っている。

窓から逃げ出すことは不可能。

七階から飛び下りるなど到底できっこない。


嗚呼八方塞。


扉の開閉音にココロはビクッと体を弾ませた。

ぎこちなく顔を上げて出入り口を見やれば眩暈が起こる。

まったくもってどうすればいいのだろうか。苛めっ子巨乳不良が目前にいるのだが。悪いジョークだと思いたい、思い込みたい状況だ。


小中時代の思い出が湧き水のように溢れ出て、ついつい顔を目にするだけでも吐きそうだとココロは顔面蒼白。


そんな態度を取っても相手を喜ばせるだけだ。歪んだ喜色に溢れるその女不良、古渡直海は口角をつり上げて絡んできた。



「御機嫌よう、根暗のココロ。今日も根暗な態度なこと。随分、いい身分になったよねぇ。アンタみたいなオドオドちゃんに、オトモダチ、更にはカレシができるなんて。アンタみたいな奴を受け入れるお友達、彼氏がいるなんてねぇ」




肩を竦めている古渡のことのは一つひとつが刃そのもの。

俯いてブルブル身を震わせているココロに、


「独りぼっちだったくせに」


古渡はクスリと自分の存在を嘲笑ってくる。


「アンタがそんな性格だったからお友達も逃げて行ったんだよね」


歩み寄って片膝を折り、額を小突いてくる古渡に反論さえできない。本当のことなのだから。


「楽しみだね。アンタの大事なオトモダチ、カレシが消える未来」


クスクスと笑声を漏らす古渡はグリグリっと額を人差し指で押してきた。

何気に痛い攻撃だが、「痛い」と反論する勇気さえ持てない自分がいる。自己嫌悪だ。


「コーコーロ。キスしてあげよーかー? アンタの彼氏にさ。私、地味くんでもキスくらいできるけど? 勿論、セックスも」


人の心を弄ぶ発言に、「そ……それは」ココロはオドオドとようやく言葉を発する。

愉快犯は高らかに嘲笑い、


「目の前でしてあげる!」


何せ、その彼氏くんは自分の彼氏くんになるのだから!

一々人を脅してくる性悪女に内心悪態をつきたくてしょうがなかったが、ココロは何も言わなかった言えなかったダンマリになるしかなかった。


相手がとてもとても怖い、のだから。
 

「貴方、とても悪い女。見ていて虫唾が湧く」


空気を裂いてくれたのは、同じ人質になっている敵チームの女性。小柳帆奈美。


「弱い者いじめ、良くない」


カタコトに喋って鼻を鳴らす。

弱いという単語にグサっとくるココロだが(弱い者って自分のこと?)、帆奈美は関係なく古渡を睨んだ。




しかし性悪女はフフンと鼻を鳴らし、


「五十嵐の女になれば? そしたら愛しい彼、助かるかもよ?」


嘲笑する古渡に怖じることなく素っ気無く返した。


「それは私が決めること。貴方に言われる筋合いない」

「ふふっ、その強気、いつまで続くやら」


クツリと笑う古渡は、せいぜい今の内に強がっておくことだと一笑。

さっさと扉向こうに消える。


閉じられた扉に人の気配。

見張りが再び扉に立ったようだ。閉め切られた扉を見つめ、ココロは大きく溜息をつき自己嫌悪を噛み締める。


また何も言えなかった。 反論もできなかった。怯えることしかできなかった。


苛めっ子に完全に屈している自分がいる。


(強くなると決めたのに……)


深い溜息をついて膝を抱えていると、


「隣。いい?」


向こうに座っていた帆奈美から声を掛けられる。


彼女、帆奈美とはこの部屋に閉じ込められている間に随分と仲良くなった。


最初こそ敵チームだからと警戒心を募らせていたが(姉分とすこぶる仲が悪い)、乙女痛で悩まされている自分に薬をくれて甲斐甲斐しく世話をしてもらった。人質にされ怯えてしまっている自分を励ましてもくれた。


姉分とはまた違った姉分肌の帆奈美に今ではすっかり気を許し、仲良しさんとなっている。


帆奈美の問い掛けに、コックリとココロが首を縦に振る。


すると帆奈美は場所を移動。

隣に腰を下ろして、体を震わせている自分に大丈夫だと綻んできてくれた。


仲間がきっと助けに来てくれる、自分達は信じて待てば良い。

頼り甲斐のある台詞にココロもようやく笑みを零す。


うんっと頷き、古渡の放った台詞は忘れることにした。


大丈夫、仲間も彼氏も自分から離れて行かない。


いつだって傍にいてくれたのだ。

きっと、今頃血眼になって捜してくれているだろう。そういう人達なのだから。


それに彼氏が言ってくれたではないか。もう独りぼっちじゃない、と。


だから大丈夫、大丈夫なのだ。


あ、そういえばクッキー。

バス停に置いて来たけれど、あれはどうなったのだろう。彼に食べて欲しかったんだけれど。また焼けばいいかな。


「ココロ、さっきよりイイ顔。舎弟のことでも想っている?」

「あぅ……ち、ちが、違います「顔が赤い」あうっ……ちょっとだけ」


ううっ、糸も容易く見抜かれた。


頬を紅潮させるココロに、


「大事にしてくれる?」


微笑ましそうに質問。


とても大切にしてくれる、ココロは蚊の鳴くような声で呟く。


現状が現状なだけに二人で過ごす時間は少なく、他校同士で合う時間も限られている。

彼は大半を舎兄や仲間と過ごしているから、ちょっとだけ物足りない気持ちを抱いていた。


気持ちを疑っているわけではないが、好きという気持ちが不足していた。


けれど彼氏は気持ちを察してくれて自分を甘えさせてくれる。


軟禁される前日は我が家に遊びに来てくれたし、夜には体調を心配し電話も掛けてくれた。

思い出作りだと写メも撮ったし、キスもしてくれた。キツク抱き締めてもくれた。


何より彼は傍にいてくれる。凄く大事にされているのだろう。


そう思うと、彼が古渡の魔の手に掛かるとは思えない。否、自分のために行動を起こしそうで少し怖い。




自分のためであろうと、別れ話を切り出されるのは嫌だ。とてもとても嫌だ。


うんぬん悩むココロに、


「百面相」


自分の頬をつんっと突っついてクスリと一笑。


「とても好き、それは分かった。彼氏に、ココロ……とても大事にされている。でも、ちゃんと準備はしないと駄目。妊娠するから」


帆奈美、真顔で爆弾発言を投下。

ココロ、目を小粒ほどに小さく丸くして硬直する。


「……妊娠って、あの」


「子供ができたら一大事。宿る子供も大変、貴方も大変、周囲もパニックになる。だから、ちゃんと」


「そ、そそそそそそそれってあのっ、えぇえええっとっ、わ、私っ、ケイさんとッ、だ、だ、だ、男女の営みッ……?!!!!」 


なんてことを言ってくれるのだ、この人。


自分達は学生だというのに、そんな不謹慎な。

いや、不良の皆さん方はするかもしれない。


アダルトワールドウェルカム、何でもばっちこーい! なのかもしれない。


だがしかし、此方はジッミーに生き、ようやく恋愛というものを経験し始めている子供な高校生であるからして、あるからして、だ!


滅相も無い妄想をし、


「初デートもまだなのに」


ココロはブンブン頭を振って不要な心配だとボソボソ。

「シたくない?」

首を傾げる帆奈美に、「こ、子供ですから」ココロはモゴモゴボソボソモジモジ。

「ほ、帆奈美さんみたいに……お、大人でっ、魅力ある女性だったら……その体にも自信……あると思いますけど」

ココロは己の胸を見つめ、古渡の胸を思い出して頭上に雨雲を作る。


「う゛ー……ぺったんこですもん。Aですもん。魅力だって全然」

「舎弟は貴方のことが好き。真っ直ぐ貴方に好き、伝えている。それで十分魅力あると思う。相思相愛、とても羨ましい」


そういう恋愛をしてみたいものだと帆奈美は吐露。

ココロは薄々ヨウと帆奈美の関係を知ってはいたが耳にする程度。

今は日賀野大和のセフレになっていると知っているし、安易な言葉は口にできなかった。


しかし黙ると沈黙が襲ってくるため、


「好きな人いないんですか?」


遠回しな物の言い方をする。


いると即答する帆奈美。

しかし、好きと想うに想えないと彼女は苦笑を零した。


「ココロ、今のヨウ。どう? 優しい?」

「え? あ、ヨウさんですか? ……はい、優しいですよ。地味な私とでも隔たりなく話してくれますし」


「そう……そういうところは変わっていない。ヨウは真っ直ぐだから、きっと仲間を一番に想っている。彼のイイトコロ」


元セフレを語る表情は限りなく柔らかい。

思わず彼の事が好きなのかと尋ねれば、嫌いだと即答。ムッと不機嫌になっている。
でも何処と無く哀愁漂っているのも現実だ。


「じゃあヤマトさんが?」


言葉を重ねると、「好き」これまた即答。

やはり哀愁は取り巻いたままである。


「ヤマトとはセフレ、でも好き。彼は大事にしてくれる。私の一番の理解者。
元セフレのヨウも……多分、大事にはされていたと思う。好きだった。でも嫌い。とても嫌い。私はヤマトを選んだ。だからヨウは嫌い」


「うーん。えーっと……帆奈美さん、矛盾しているような。
なんだかヨウさんを嫌いって思い込んでいる様にしか見えないんですけど。どうしてヤマトさんとセフレに? 好きなんでしょう?」


好きになったら普通は恋人になるものじゃ、そう思うのは自分が子供だから?


曖昧に笑う帆奈美はココロの頭に手を置いて告げる。

些細な事でも何か想うことがあったら気持ちは相手に伝えた方がいい。


でないと自分とヨウのように、またヤマトと自分のようになってしまうのだから、と。


謎めいた言の葉を紡ぐ帆奈美は、


「私と同じはダメ」


とにかく今の彼氏を大事にして信じなさい、あどけない笑顔で助言してきてくれる。


話をはぐらかされた気もするが、ココロは深く追究しなかった。

帆奈美にとってきっと踏み入れて欲しくない領域だろうから。


フッと息を吐き、ココロは天井を仰ぐ。自分達がゲームの材料にされているのは分かっている。


足掻いてゲームを掻き乱してやりたいが、現段階では少々無理な状況下である。だから願うのだ。


(皆さん……ケイさん……今、どうしていますか? どうか無事でいてくれますように)


ココロは、深く強くそう思わずにいられなかった。






◇ ◇ ◇



曜日(金)、AM10:15。

携帯のディスプレイに表示されている時刻を見て、一つ溜息。


72ゲームが始まって約40時間が経過。

タイムアップまで32時間前後か。


残り一日とちょいでココロを取り戻さないと俺達の敗北は決定する。


敗北したその瞬間、ココロは……ネガティブは駄目だ。

不幸な妄想は不幸しか呼ばない。ネガティブな妄想もネガティブしか呼ばない。


ネガティブ田山になっても良いことなんてない。

ハイパーポジティブ田山にならないとな!


それにしても、こんなことになるなんて。


みんな、“昨日の敵は今日の友”って言葉を知っているかい?


俺は言葉を知っているどころか身を持って体験しているところなんだぜ!


しかも現在進行形! いやさ、誰も予想しないじゃん?


ずっとずーっと敵対していた敵の不良さんチームと手を結ぶ日が来るなんて。


あんなに対峙していたチーム同士が嫌々ながらも手を組む。手を組むなんて。


まさしく“昨日の敵は今日の友”。

神様仏様女神様もいけずなことをしてくれるよな。


閻魔様だって予想していなかった未来に違いない。



さて簡単に現状の説明をすることにする。


昨晩手を組むとお約束した俺達は、奇襲等の疲れを癒すためにその日は一旦解散。


各々ゆっくりと体を休めて翌日の十時半に集合することが決まった。


集合場所はヨウ達が中学時代、放課後によくたむろ場に使っていた場所。


大通りから大幅に逸れている某地区の神社裏に集うことになった。


神社でたむろとか、すこぶる罰当たりな気もする(てかめっちゃ罰当たり!)、中学時代のヨウ達は此処で集まって花火やプチ飲み会をしていたそうな。しかも深夜に。ははっ、いっぺん罰当たって来い、お前等!


とにもかくにも中学時代のあの頃に戻るわけだから、中学時代に使っていたたむろ場に集おうという話になり、俺達は今、神社裏に溜まっている。


つまり、学校をおサボリしてくれた利二も含むチームメート全員で神社裏にやって来たわけです。


十時半に集合ではあったのだけれど、道中で奇襲をかける可能性も見越して早めに浅倉さん達のたむろ場を発った俺達は十五分前に到着。


十五分も前に着いたのだから、きっと日賀野チームを待つ羽目になるんだろうな、と思っていたのだけど、向こうはそれよりも早くに到着していた。


驚いた。

向こうチームがもう待っているなんて、不良のくせに時間には余裕を持たせるなんて意外だ。


授業時間にはルーズなんだろうけどさ。


ただし、「ッハ、おせぇ」日賀野が挨拶代わりにヨウに悪態を付いていたから、危うく一悶着起きそうだった!


なんとか喧嘩には至らず済んだけど、ドキドキハラハラしたよ、うん。


二チームが全員集合したところで話し合い開始。

木々が生い茂っている神社裏は石段や置石、ジベタリングできるくらのスペースがあるから広さ的には余裕のよっちゃんだったんだけど。


へいへいへーい!

現在進行で空気は最悪なんだぜ!


それは何故か?


いや、確かに二チームは“昨日の敵は今日の友”精神で手を結んだ。結びはしましたとも。


でもな、和解をしたわけじゃないから、集まっただけで異様な空気が一帯を覆ってしまい、天気は好いのに空気は最悪!

ピリピリした空気が高圧線のように張り巡っている!


お互いに顔は合わせてはいるけど、二チームを隔てるように距離が置かれているし?

リーダー同士なんてそっぽ向き合っているし?


誰ひとり喋ろうとしないし?


ははっ、お前等、手を組むの意味は分かっているかい?





これじゃあ、カタチだけだぞ! チームを結び合った意味がねぇ! 時間もねぇ!


ついでに空気の重さに胃が重てぇ!


……リーダー二人さんよ、仕切っておくれよぉ!

お前等は上辺でも手を結んだんじゃねえのかよ!

なんで一触即発ムードが漂っているわけ? そんなに仲が悪いのか?!


そりゃ犬猿の仲かもしんないけどなぁ、“犬猿”と書く犬と猿だって桃太郎や雉と一緒に鬼ヶ島に行って鬼を退治したじゃないか! 今だけでいいから仲良くしようぜ!


心中で涙を流し始めた時、「あひゃひゃひゃひゃ!」「おひょひょひょひょ!」二つのウザ口調笑い。


謂わずもワタルさんと魚住だ。


神社裏一杯に笑い声を満たして、これじゃあ時間の無駄だと指摘。


さっさと始めないとゲームに負けるどころか、大敗!


それはごめんだと二人して大笑い。ナニがそんなにおかしいのか、俺には謎も謎だ。


でも二人なりに重苦しい空気を打破してくれようとはしているみたい。


腹抱えて大笑いしている二人は声を揃えて話し合いをしようと提案。


「あひゃひゃひゃひゃ! このままの空気なら僕ちゃーん、ひとりで五十嵐に挑むっぽ! あひゃひゃ、僕ちゃーん死亡フラグ!」

「おひょひょひょ! まったくもってそのとおり! わしが一緒にお供してやっても良いぞい! おひょひょひょ!」


「あひゃひゃっ、アキラ! 一緒に死ぬ? 死ぬフラグ? きもーいお!」

「おひょひょひょっ! それも人生じゃい! 『我が生涯に一片の悔いなし』じゃ! 悔いあり過ぎるけどのう!」


あひゃひゃひゃひゃ!

おひょひょひょひょ!


神社裏に響き渡る二つの笑い声。そして俺の心境はう、うぜぇ……。

いつも耳にするウザ口調が二倍も三倍もウザく感じる。


さすがは元親友同士、ウザ口調の持ち主が二人揃うとマジうっぜぇのなんのって、あひゃおひょ! 俺も笑いたいくらいうっぜぇと叫びたい! 叫んで胸の内をスッキリさせたい!


ただ二人のウザ笑い声のおかげさまで沈黙は散り、ようやくリーダー二人が重い口を開いて話し合い開始。


この開始までに十分ほど時間を要したのは、もはやご愛嬌だろ! な?!


ジベタリングをしているヨウはうーんっと腕を組んで、ポツリ。


「五十嵐の場所をある程度、特定はした。で、これからどうするかだろ? ……こりゃもう乗り込むしかねぇだろ」


すると石段に腰掛けていた日賀野が出た出たとばかりに鼻を鳴らす。


「ッハ、単細胞はこれだ。過程を考えず、結論だけ出す。まずは順序を立てて物を言え」


バチン、二人の間に軽く火花が散る。ちょ初っ端からそれ? それなのか?!



あわあわと俺が「ヨウ。落ち着けって」、向こうチームの健太が「今は穏便に」と日賀野を宥めるけど、二人の火花は散るどころかエスカレート。


「ヘッ、頭でっかちサマは? ウダウダと過程を考えるのが相変わらずお好きなことですねぇ。結論は一緒のクセに」


「考え無しは馬鹿みたいに乗り込むしか考えねぇだろうが。ココを使え、ココを」



「ヘッ」ヨウは青筋を立てて中指を立てた。

「ッハ」日賀野も青筋を立て、カスと悪態。



更にヨウが舌を出し、日賀野が立てた親指を下に向けた。


刹那両者カッチーンのブッチーン、血管が切れかかる。リーダー二人はやんのかとばかりに勢いよく腰を上げた。

ちょ、あんた等っ、ほんともうっ、口を開くだけで喧嘩かいなぁ!


「だいったい貴様は、そうやって考え無しに物を言うからアタマにくるんだ。なんでアタマを使おうとしねぇんだっ、クソめんどくせぇ!」

「はあ?! お前ほどメンドクセェ狡い男はいねぇよ! テメェみてぇに遠回しな考え方よりかはマシだろーが!」


ああくそっ、フツーに始まっちゃったよリーダー同士の喧嘩。

今にも食って掛かりそうなリーダー二人を俺と健太で必死に宥め止める。





「今、喧嘩しても得なんてないぞ。ヨウ!」

「ヤマトさんも落ち着いて下さいっ。帆奈美さんっ、救出しないといけないんですから!」


両チームのインテリ不良からもこんなことをしている場合じゃないと呆れた声が飛ぶけど二人は火花を飛ばしたまま。


ついに二人は口論勃発。


「テメェは昔っから!」「出た出た馬鹿丸出し発言!」「脳みそパァ!」「単細胞のミジンコ!」等々、なんだか小学生以下の口論を繰り広げている。


お前等二人ともめんどくせぇな!

喧嘩をしている場合じゃないと言っているのに!


何度も時間が無いと言って止めたおかげさまで、どうにかこうにか喧嘩闘志の炎は消火したけど、これじゃあ、いつまで経っても前に進まない。


「クソハイエナ」

「能無しクソ野郎め」


……なんだか俺、お前等さえ仲良くすりゃすべてがまあるくおさまる気がしてきたよ?


ヨウ、日賀野、お前等、取り敢えず仲良くしろ。

ワタルさんと魚住でさえ喧嘩しないよう努めているんだからさ!


見かねたインテリ不良代表のハジメ、向こうチームからはアズミが急いで行動を起こそうと意見。

時間のロスだけは絶対にしてはいけない、と口を揃える。


「手を組んだ以上、これから求められるのは協調性だよ、ヨウ。ヤマト。
まったく、リーダー二人が協調ゼロでどうするんだい? このままじゃ五十嵐にまた大敗する」


「そうだよ。一緒になることで五分五分まで勝率を持ち込めるけど、今のままじゃ勝率49%でこっちが負けるよ? たった1%の差異でも負けは負け。
今、アズミ達に必要なのはお互いを信じて行動を起こすことにある。

たった1%のBelieveが無かっただけで負け。それじゃあ手を組んだ意味がなくない? ねぇ、たっくん」



相変わらずアズミは片手にゲーム機を持って“たっくん”にベタ惚れ中。うっとりとゲーム画面を見てハートを散らしている。


乙ゲーのたっくんの顔がチラッと目に入る。

イケメソにもほどがあるだろうとツッコミたくなるくらいカッコイイな。


そんな煌びやかなオーラを出す美形は二次元にしかいないぞっ!

二次元は萌えを最大限にまで追究できるから凄いよな。


ということは二次元に田山が飛び込めば、俺もイケメンになるのか? ……いや、イケメンを引き立たせる所詮脇役的存在なんだろうけどな! ははっ、むないんだぜ!


インテリ不良の助言により、改めて空気の入れ換えをした俺達は話し合いを再開。


お互いに喧嘩しないよう、なるべく穏便に、そう穏便且つ慎重に集会が開かれた。


まずは現状確認だと司会進行を買って出たのは日賀野。

五十嵐のある程度の居場所は分かった。


順を追って何を話し合うべきか、まずは向こうの動きと力、そして自分達の力について話し合うべきだと説明を簡潔に、全員に伝わるよう話を纏めた。


向こうの動きと力が分かれば、こっちもそれ相応の力を分配できると日賀野は語る。