青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「なんだテメェ等」


近くのビリヤード台に腰掛けていた不良数人が俺達にガン飛ばしてくる。


おわぁあああ、恐い、怖い、KOWAI!


射殺しそうな眼が俺のハートをビビらせているんだぜ!


いつでも何処でも不良と一緒だけど、不良慣れなんて一生できないんだぜ! 帰りたいんだども! 半べそを掻く俺を余所に、リーダーが雄々しく話を切り出す。 


「浅倉に話がある。通してもらいてぇんだが」 


向こうから舌打ちが聞こえたのはなしてでしょうか?


「あーん? 和彦さんに? ……テメェ等、エリア戦争に関わってる回しもンだろ? だったら容赦しねぇ。おい」


不良達が臨時態勢を取り始める。


話がある=回し者。


それっておかしい図式だと思うのは俺だけじゃないよな。


話があると言っているだけなのに回し者の容疑が掛かっちまうなんてありえないんだけど。


ちょ……不穏な空気が漂ってきたよ。これは訪問早々喧嘩のニオイか。


だったら喧嘩っ早いな、不良って!

警戒心を募らせている複数の不良達のガンを受け止め、


「めんどくせぇ奴等だな」


ヨウが悪態をつく。

それにより、空気が一層悪くなったのだけれど、リーダーは場慣れているらしく、やや声音を張って目的を告げた。


「浅倉に協定の件で返事しに来た。そう伝えろ」


憮然と肩を竦めるヨウに対し、ガンを飛ばしていた不良達の空気が変わる。


警戒心を抱いたまま、俺等の身の上をしっかりと確かめてくる。


「協定? じゃあ、お前等、荒川チームか」


「そうだ。浅倉はいるか?」


「少し待ってろ」


不良の一人がビリヤード台から下りて、颯爽と部屋の奥に向かう。ビリヤード場は二部屋あるみたいだ。


俺達が荒川チームだと分かった瞬間、周囲の不良の皆様方の空気が緩和。不穏は霧散していた。

良かった、どうにか喧嘩にならずに済んだみたいだな。

喧嘩になったらどうしようかと……これもそれもあれもワタルさんがウザ口調でご挨拶するから。


取り敢えず、俺等は向こうの動きがあるまで出入り口で待機。

全員ビリヤード場に入って向こうの返事を待つ。


その間、痛いくらい浅倉チームの視線を浴びる羽目になって、息苦しいのなんのって逃げ出したい空気だ。ヒソヒソ声も聞こえてくる。


「あれが荒川か」「噂には聞いてたが」「地味だな」


まあまあ、なんか誤解されているような気がしてならない会話に、俺は顔を引き攣らせる。まさかだと思うけどさ。


「カモフラージュとしては完璧だな。ありゃ敵も欺ける地味ダサくんだ。思わずカツアゲしたくなるもんな。いやぁ策士だな、荒川。で、あいつの舎弟は?」

「噂じゃそこの赤メッシュらしい。美形だな、あいつ。向こうの方がリーダー格に見える。知っているか? 荒川とその舎弟って夜な夜な、二人で族と会っているらしいぜ」

「マジかよ。族ってやばくね? そりゃ日賀野チームと渡り合える筈だよな。噂によると先公をリンチしまくっているそうだな」


「らしいぜ。超キレ者らしいぞ」


俺等の評判、最悪じゃないか。身に覚えのない噂まで立っているし。

族? ンなのに関わったら最後、田山圭太は極道に走るぜ!


……嘘、関わったその瞬間、俺は警察に逃げ込むぜ! 自分と命一番だろ!





しかも思ったとおり、ヤな勘違いをしているしさ。


俺は荒川庸一じゃない、田山圭太だってーの。


カツアゲしたくなるナリ?


やかましい!

やれるもんならやってみろ!


俺なんて地味っ子にカツアゲしたらな、簡単にできちまうんだからな!


財布はいつも寂しいことになってるから遊びの足しにもならないぜ!


「アリエナイ」


俺の嘆きに、


「リンチはしたことねぇ」


教師を軽くボコしたことはあるけど……ヨウが神妙に呟く。


ものすっげぇ物騒な独り言を耳にした気がするけど、聞き流すことにした。

スルースキルを高めるのも人生において必要だよな。


ツッコむだけが人生じゃないよな。


「和彦さんが奥に来て欲しいそうだ。案内する、荒川」


浅倉さんに報告した不良が戻って来た。

先ほどの態度とは打って変わり、案内すると愛想よく笑ってくるのはいいけどさ……何故に俺に言うんだよ。


いや分かっているよ。

誤解してくれているんだろ! アリガタ迷惑な事にさ! 浅倉さんの時と一緒だろ?!


引き攣り笑いを浮かべる俺に、もうダメだと大笑いするワタルさんとシズとハジメ。

俺の不幸を清々しく笑ってくれる。


くそう、俺の不幸を笑ってくれやがって。


きっとヨウも悔しい思いを抱いている筈。

振り返ってヨウに救いを求めれば、

「行きましょうぜ。兄貴」

笑いを堪えながら俺の肩に手を置いてくる調子乗り一匹。


イケメンくんは笑っていても、意地が悪くても、何でもイケていて腹が立つのですが。


ぶっ飛ばすぞ、お前! 勿論、出来る筈ないけどさ! ンなことしたらモトに絞め殺される!


「ヨウ! お前、何ふざけてくれちゃってるんだよ!」


怒声を張る俺に、笑声を漏らしながらヨウはキョトン顔を作っている案内役の不良に自分が荒川だと名乗る。


不良の反応はこうである。


「いや、ここでカモフラージュをしなくても。あんた等が策士なのは分かっているけど、此処では普通にしようぜ。俺等、あんた等には友好的に接するつもりだし」


アウチ、デジャヴ。


「いや、だから俺が荒川で」

「お前がリーダーっぽく見えるのになぁ。頭いいんだな。お前のリーダーって」

「こっちが田山」

「まさか、地味くんがリーダーなんて誰も思わないし」



「……またこのパターンか。なんでこんな噂が立っているんだよ。ケイ、なんかしただろ?」 


その言葉、そっくりそのままお前に返す。

舎兄弟の悪い噂が立っているなら、十中八九舎兄に原因があると思いますけどね!

俺より兄貴の方が素行も悪いし……舎弟はいっつもとばっちり受けているんだからな!


お前にだけは絶対に言われたくねぇやい!


途方に暮れている俺等を助けてくれたのは、頭脳派くんのハジメだ。


「あの、噂はデマだから。僕等のリーダーはまんま美形不良のこの人。地味な彼はヨウの舎弟。確かに地味だけど僕等のチームメート。彼はこれでもチームの戦力の要になっているんだ」


「ああ、それもカモフラージュとしての説明か」


「……いやだからね」


ハジメの懇切丁寧な説明のおかげで、誤解を乗り越えることができた俺等は不良の案内のもと、浅倉さん達のいるビリヤード室に入る。




全部で六つ、並列に等間隔に並べられたビリヤード台の一つに浅倉さんがいた。


本来ビリヤードを楽しむ筈の台は、すっかり不良の腰を下ろす休憩場と化しているようだ。



浅倉さんは最奥の右側のビリヤード台に座って、暮夜の景色を窓から眺めていた。

彼の両隣には副リーダーの涼さんと、彼の舎弟桔平さんが立っている。


残り数人の不良達が各々ビリヤード台前に立っていたり、寄り掛かっていたり、床の上で胡坐を掻いていたり。


注目を浴びる中、ヨウとシズが先頭に立って向こうのリーダーに歩み寄る。


「よっ」

軽く手を挙げる浅倉さんに、


「返事しに来た」


挨拶代わりの言葉をヨウは投げる。


回りくどい言い方は不要だと微苦笑を漏らす浅倉さんはどこか諦め顔だ。


そりゃあ、な……弱小チームと協定を結ぶ馬鹿はそうはいないだろ。


ましてやエリア戦争に加担するなんて、日賀野チームと対立している俺等からしてみれば負担極まりない。


内輪でも話題にあがったほどだ。

負担になるし、もしかしたらこれが原因で負ける可能性だって出てくるかもしれない。

なかなか協定を結んでくれる馬鹿はいないだろう。


「いいか浅倉。始まる前からンな面してんじゃねえぞ。テメェはチームのリーダーだろうが」


浅倉さんの表情を叱咤するヨウは、

「そんなんじゃ先行き不安だな」

毒言する。


取り巻きが不快な表情を浮かべているけれど、リーダーは物怖じせずに言葉を続ける。


「仲間を守りてぇなら、死ぬ気でやれ。テメェがそれじゃあ、こっちも困るんだよ。今からたむろ場に帰って、仲間に返事の変更を伝えないといけねぇじゃねえか」


微苦笑が崩れ、浅倉さんの顔は驚愕に変わる。

ヨウはしたり顔を作った。


なあ浅倉さん、俺等のリーダーは馬鹿で真っ直ぐなんだ。直球型不良なんだ。


何より義理と人情と仲間を大切にする、不良だけど不良らしくない奴なんだよ。


弱小関係なく、信頼関係を最重視する馬鹿なんだ。

このチームなら俺等と友好的に手を結べると思う、信頼を重視する奴なんだ。


副リーダーもそう。

何だかんだいって、結局は信頼を築き上げることを選択。


それに俺等チームも異存はない。

寧ろ、こうなることを、誰もが予想していた。


「俺から出す条件は三つだ」


ヨウは一歩前に出て、条件を挙げた。


「ひとつ、勝利のために俺の仲間をダシにしやがったらその時点で協定解消。

少しでも俺の仲間を傷付けるような真似してみろ、容赦しねぇぞ。

俺は仲間が傷付くのを何よりも嫌っているんだ。
作戦であれ仲間をダシにすることだけは、チーム頭の俺が許さない。


ふたつ、裏切る素振りを見せた時点で俺等はテメェ等チームを潰す。

テメェ等から持ちかけてきた話だ。
責任を持って俺等と手を結んでもらおうじゃねえか。

ヤマトに寝返りでも見せたら最後だぜ? 俺等、これでも奴等と対立してる状況だ。

仮に相手に唆されたとしても、裏切り行為は俺等に敵意を見せたってこと。

俺等は協定を解消して、テメェ等を壊滅に追い込む。


みっつ、俺等は負けの喧嘩なんざ眼中にねえ。

俺等と協定を結ぶっつー覚悟があるなら、常に勝つ気でいてもらう。
弱小チームだから、腕っ節ねぇから、不良の落ちこぼれだから……ンなちゃちい言い訳は俺等に一切通用しねぇ。


勿論、協定を結んだ後は日賀野チームを負かすために協力してもらう。
俺等がエリア戦争でテメェ等の肩持つって言っているんだ。それくらいの見返りは求める。


どうする、浅倉。

今ならまだ間に合う。協定の話、無かったことにもできるが?」


ヨウはアーモンド形に目を細め、まるで威圧するように向こうの頭を見据えると、ビリヤード一室に響き渡るような声音を張った。



「これは俺の意思だけじゃなく、チームの意思であり決定。俺達はテメェ等に信用と覚悟を腹に決めて返事をしている。
協定を結ぶ気でいるなら、常にエリア戦争の勝者になる気持ちでいろ浅倉。俺達のチームは全員一致で、テメェ等チームとの協定を受け入れてやる!」



⇒#07


離れて行った仲間に嘆くんじゃなく、残ってくれた仲間のために喜んで一肌も二肌も脱ごう。



リーダーってのはそういうもんだ。



チームを纏めるだけがリーダーじゃねえ。

仲間を守れねぇリーダーはただの能無し。


おりゃあ、リーダーをそういう目で見ている。


 
 



◇ ◇ ◇



【協定集会・場所:倉庫(荒川組たむろ場)】


嗚呼、なんてこったいマドモアゼル。 

とんでもジョニーな光景に、俺の気持ちは勘弁してくれフロイラインだ。


かつてない光景に圭太、喪心しそうッス!

こんなにも多くの不良に恵まれてしまって俺、泣きたいッス!


勿論感涙じゃなく、悲しみの涙ッス!

涙も心もしょっぱい気持ちで一杯ッス!



……阿呆なことはここまでにして、この不良の数はない。


過度に言いすぎかもしれないけれど、それにしたってこの人数には「……」だ。


俺達のチームと浅倉さんチームを合わせると結構な数になるもんなんだな。

若干向こうの方が人数的には多い気がする。俺は向こうのチームを見やって不良の数を数えた。


俺達チームの人数は男女合わせて11人(と、チームに手を貸している利二を合わされば12人)。



一方、向こうの人数は15人。

現時点では4人、向こうの方が数が多いみたいだ。


ただ俺等と決定的に違うのは向こうには女がいない。見事に野郎ばっか。


もしかしたら“エリア戦争”に参加するからと、女の子は入れていないのかもしれない。チームから抜けさせているのかもしれない。

力的な意味で女の子は足手纏いだし、やっぱり女の子に怪我をさせるのはなぁ。


そういう面じゃ俺等も同じで、基本的に女子は待機組(もしくは情報・作戦組)に回ってもらっている。

響子さんは自ら喧嘩に参加すると言っているからあれだけど(でもヨウやシズは今回に関しては反対しているみたい。

だから補佐をしろ、と条件を出していた)、非力な弥生やココロに喧嘩に加担しろ、なんて酷だしな。


ま、非力な俺も十二分に酷な戦場に借り出されるんだけどさ! 死亡フラグ満載どーするよ……。 

 
がっくり肩を落とす俺は、改めて集会光景を見つめる。


協定集会が始まったのは午後五時。

夕焼けが何年も掃除されていない倉庫の窓から射し込んで、倉庫内を見事な真紅に染め上げている。

比例して皆の制服や肌の色が夕陽色に染まっていた。


集会が始まる前から向こうのチームは険しい面持ちだった。


協定を結んだ俺等に友好的な感情は見せてくれているものの、未だに俺等を信用していないのか、もしくは『エリア戦争』に憂慮を抱いているのか、硬い表情が殆ど。


おかげで各々不良に妙なオーラが取り巻いて、圧死しそうな威圧感が倉庫を満たしていた。空気が重い。超重い。息苦しさにトンズラしたくなるほどだ!



そんな中で始まった集会。


野郎は各々ジベタリングしているため、倉庫内はお行儀の悪い光景極まりない。



まずは浅倉さんが代表してリーダの自分と副リーダーの涼さんを紹介してきた。


人数が人数だ。

全員を紹介する時間が惜しい。


せめてチームの中心人物だけを憶えていてもらおうという配慮から、自分を含むチームの頭を俺等に紹介。


それに倣い今度はヨウが改めて、浅倉さんチームにリーダーの自分、副リーダーのシズを紹介。

簡単な自己紹介後は、浅倉さんが早速『エリア戦争』について現状を全員に説明する。





「エリア戦争は全部で4チームが参加している。

おれ等、榊原、都丸、最後に刈谷チームの4チームだ。


既にエリア戦争は始まってらぁ。

圧倒的に今、優勢に立っているのは榊原チームだな。
商店街の支配エリアが確実に広い。おれ等は劣勢なんだ。

此処で質問は……って、ん? なんか荒川チームがキョトン顔しているが……え? なに? ちっとも話が見えてこない?


ああ、悪い悪い。


話す順序がちげぇな。あまりにも端折りすぎた。

おれ等チームは分かっているけど、お前等は分からないよな?


んじゃ、まず最初に商店街の構造と支配エリアについて説明することにするぜ。

悪いな、おりゃあ説明ベタなんだ。けど頭として精一杯、説明させてもらう。


池田達が支配していた商店街の地形はダイヤのような形をしている。


普通のダイヤの形を想像してくれれば良い。

まだ想像し難い場合はトランプに載っているダイヤのマークを想像してくれ。

とにもかくにも寂れているくせに、『廃墟の住処』って呼ばれている商店街は妙な形をしているんだ。


この商店街の地形の面白いところは、ダイヤの形した各々の突端に出入り口があるってことだ。


つまり、ダイヤの形の角っこ角っこに商店街の出入り口があるって話だ。

出入り口は全部で四つ、東西南北それぞれにある。


わりと大きな商店街だってことくれぇは想像付くよな? 少し前まで……あー昭和時代は賑わいを見せていたらしいからな。


平成に入ってからデパートやらコンビニやらの出現で廃れちまったけど、近所じゃ有名な商店街だったらしいぜ。商店街のエリアは結構でかい。


各チームはそれぞれ出入り口を支配して、自分の陣地を徐々に増やしていこうという魂胆だ。


おれ等は北の出入り口を支配している。


だが陣地は少ねぇ。

戦力不足で出入り口付近を守るのが精一杯だ。


おれ等と同じような状況下にあるのは東の陣地を支配してる都丸チーム。


あっちも戦力不足なのかぁ、支配エリアは少ねぇ。実力的にはおれ等とどっこいどっこいだ。


西の陣地を支配しているのは刈谷チーム。

ちょい優勢で、陣地的にはおれ等よかは広く取っている。


おれ等は先日、このチームに一部のエリアを取られちまった。

実力的にはどっこい、だが数が多い。厄介っちゃ厄介だ。



いっちゃん厄介なのはおれ等と対立している榊原チーム。



奴等は南の陣地を支配しているんだが……こいつ等は商店街の半分のエリアを支配している。


おれ等は北側だから、まだ影響は少ねぇが……両サイドの東西エリアを支配している都丸・刈谷チームは影響が出てるみてぇだ。


それだけ榊原チームが力を持ってやがるってことだ。

元はおれ等とチームだった奴等。実力者ばっかが集っているチームだってことは、ハナっから理解している。数も多いしな。


しかも日賀野チームと協定を結びやがった。


下手に手出しすりゃ、日賀野チームが駆けつけるかもしれねぇ。

他のチームはそれを知っているから、なっかなか仕掛けられない状況下にある。


おれ等としては榊原チームを伸すのが最大の目的だが、東西エリアを支配している都丸・刈谷チームを無視することはできねぇ。


ま、現状説明はこんなところだ。ご質問は?」





浅倉さんが俺等に顧みて、質疑応答の時間を設けた。



なるほど既に『エリア戦争』は始まっているわけか。



俺は頭の中で商店街の地形とそれぞれの不良チームの配置を想像する。



東西南北をダイヤの形に割り当てると、北が浅倉さん。南が潰したい榊原。東に都丸。西に刈谷。



半分くらいは榊原達に陣地を奪われているらしいけど、幸いなことに浅倉さんチームは北。



東西の陣地を取っている二チームが、ある意味バリケード的な役割をしてくれているんだな。

つまり榊原チームが浅倉さん達を潰すには、東西の陣地に腰を据えている二チームの目を避けては通れない。


片方に気付かれないよう動いても、片方に気付かれることだろう。商店街の敷地面積はわりとあるけど、あくまで“わりと”だ。


両チームの目を盗んで行動できるほど、大きい敷地とも言えない。

向こうチームと正反対の場所に陣地を取ったことが幸いしている。


反面、俺達が攻め込む時はバリケードが厄介だ。


“障害物”になるのは確かだし、二チームの目を避けて通れない。向こうチームと同じ条件が突きつけられる。


俺の知る限り、『廃墟の住処』は単に店同士が肩を並ばせているわけじゃない。


等間隔に店は並んでいるけれど、全部が全部店同士がくっ付いたように並んでいるわけじゃく、ある所でぽっかりと隙間が顔を出す。


隙間イコール抜け道になるわけなんだけど、商店街には幾つか抜け道が存在する。


攻め込むなら抜け道を使うのが有効的だと思う。


「んー、俺的には正面突破してぇところだよな。まどろっこしいのは嫌いだ」


真顔でお馬鹿発言をするのは我等がリーダー。

おいおいおい、大事な集会でなんて馬鹿な発言を……それができたら苦労しないだろ!


それこそ集会なんてまどろっこしいモノ開かないで、さっさと攻め込んでジ・エンドだろーよ!


「てか、考えるのがめんどくせぇな。俺は考えるのが苦手だ」


……やめてくれよ、ヨウ。チーム全体がお馬鹿だと思われるだろう。


「気が合うなぁ。おりゃあ、その手段が一番好きだ。喧嘩はなあんも考えず動くのが一番だもんな」

「ああ、同感だな」


能天気に笑声を上げる両者チームの頭。


おかげで緊張感漂う空気がキレイサッパリに掻き消え、代わりに漂うのは皆の落胆と不安を含むズーンっと淀んだ空気。


嗚呼、皆苦労しているんだな。


考えなしに動くリーダーに苦労しちゃっているんだな。

ある意味、これとは別の同盟が組めそうだ!


……似ているよな、浅倉さんとヨウって。

お互い真っ向勝負が好きそうだもん。


「ヨウ……」


これ以上チームのレベルを落とすのはやめてくれ、副リーダーのシズがヨウの脇腹に肘打ち。


「浅倉さんも」


真面目に考えましょうよ、同じく副リーダーの涼さんが溜息交じりにツッコむ。


悪い悪いと片手を出すヨウは、改めて俺等に疑問はあるかと聞いてくる。 

今のところは別に無いけど……俺は軽く顔を顰めて商店街の地形をぐるぐると考える。正しくは商店街外の地形を考えていた。


不利だな、浅倉さんチームの陣取った場所は。んでもって榊原チームは有利だ。

もしも地形を目論んで、榊原が南の陣地を取ってたとしたら、本当に策士だぞ。


だって南は……。


眉根を寄せている俺を余所に話し合いは進む。 

今回の集会は“話し合い”というよりも、実情は説明会に近かった。


俺等のために浅倉さん達が懇切丁寧に説明をする、みたいな流れになっている。


ある程度の話し合いが終わった後、浅倉さんは陣地の状況と敵の動きを見てくるよう仲間内数人に指示した。


するとヨウも仲間を同行させると意見し、三人を抜擢。


もしも喧嘩になった時のために腕の立つキヨタ。状況判断が長けている響子さん。そして俺の三人だ。

おい嘘だろ、怖い怖い不良さんを偵察かよ! と思った反面、ヨウが指名した意図を汲み取る。 


正直、感謝したくなった。

だって自分の目で確認できるから、商店街の地形を。


ただ向こうのチームからの反応はよろしくなかった。


ひとりは女だし、残り二人は見た目真面目くん。

不良とかけ離れたイメージを抱く人間が同行するため、こいつ等で大丈夫なのか? と、不安を抱いたようだ。



 

「おい荒川」


浅倉さんが物言いたげな顔を作った。


陣地の状況と敵の動きを偵察するということは、最悪、敵方と遭遇して喧嘩になるうるかもしれないということ。


彼はシズやワタルさんなど、手腕のある人間が同行した方が良いんじゃないかと考えているようだ。


その証拠に浅倉さんが抜擢した人間は見た目的にもガタイがある野郎ばかりだ。

けれど、ヨウは何食わぬ顔で俺達に宜しくと片手を挙げてくる。変更する予定はないらしい。


「響子、陣地の状況をしっかり見てきてくれ。キヨタ、もしもの時は先陣に立て。ケイ、テメェの動きたいように商店街を見て来い。

ああ、そうそう。
喧嘩になったら、とりあえず全部潰せよ。

今、ヤマト達に俺と浅倉が手を結んだなんて知られたら面倒なことになる」


「分かった。うちとキヨタで潰す。なあに、キヨタがいるんだ。大丈夫だろ」


意味深に笑う響子さんに、


「テメェは少し控えろよ。女なんだから」


ヨウが釘を刺す。


「いや、どうかなぁ。実は男のアレがついていたりねぇ」


ワタルさんが余計なことを言った瞬間、響子さんのハイキックが炸裂した。

顔面を強打し、くらっと倒れるワタルさんの哀れな姿を見た浅倉さん達はさぞ胸に刻んだことだろう。

響子さんを怒らせるべからず、と。


「にしても、チビと荒川の舎弟は……大丈夫かよ」


浅倉さんチームのひとりがぽつんと本音を漏らす。

申し訳ない、俺は大丈夫じゃないです。

響子さんやキヨタと違って手腕皆無です。


これでもヨウの舎弟として毎日を必死に生きているんだけど、頑張ってはいるんだけど、やっぱり喧嘩の能力は零なんです。


まったく使えないからヨロシクお願いしやす!


「ちょっ、大丈夫ってなんっスか! ケイさんを侮辱するのは俺っちが許さないっすよ!」


ここでしゃしゃり出てきたのは同行するキヨタだ。

聞き捨てならないと吠えるチビ不良は、


「兄貴の実力を知らないから」


そんなことが言えるんだと鼻息を荒くした。

キヨタもまた不安を煽っている要素なのだけれど、それには気付かず、ひとりで興奮している。

あああっ、こいつはもう……俺をこんなにも愛してくれちゃって。おかげで面倒事が増えるだろ!

「き、キヨタ。落ち着けよ」

必死に止めるんだけど、

「ケイさんは凄いんっスよ」

燃えに燃えているキヨタはグッと握り拳を作って高らかに吠えた。


「ケイさんはチームイチの男前なんっス! 舐めたら痛い目を見るっスよ!


……確かに身形は地味っこくて不安を煽るかもしれないっス。

俺っちも失礼ながら、初対面当時は思っていました。

こんな人がどーしてヨウさんの舎弟なんだと思った時期もありました。


だけど一皮剥けば、誰よりもクールで男前! 爽やかで輝いているっス! その心意気に惚れない女はいないっス! 男だって尊敬しちまうっス!


それに、ケイさんは俺っちにとてもとても大切なことを教えてくれました。

何だと思うっスか?
……それはっスね、人は見た目じゃない、中身が大事なんだってことっス!

俺っち、ケイさんほど男前な人は見たことないっス!

ケイさんは俺っちのハートを盗んでいった罪作りな男っス!

ルパンも顔負けな手際の良さでハートを盗まれたっス!


罪な男っスね……あ、ケイさんなら罪さえも許されると男っスけど!

なんなら俺っち、一晩かけてケイさんの素晴らしい武勇伝を語ってもいいっス。武勇伝、武勇伝、武勇でんででんでんLet's go! ケイさんカッコイイ!」



カンカカンカカンカカッキーン。


ハイ、キヨタの発言、いつにもましてライク美化されている。ペケポン!


フッ、決まったぜ。俺、マジで芸人さんになれるかも。


こんなにもノリノリにキヨタの無茶振りを心中で……心中でノった俺の大馬鹿野郎。でも口に出して言わなかった俺は凄い! 偉い! 成長した! んでもって……。



「あああっ、すみません! 気にしないで下さい! この子、ちょっと俺を美化して見る傾向があるんです。
偏見と言いますか、妄想と言いますか、過大評価すると言いますか。素敵で兄分想い、でも残念っ子なんです。キヨタには後でよく言っておくます。ほんっとすみません」



弟分の無礼講に頭を下げる羽目になったのだった。




あだしごとはさておき、俺はキヨタ、響子さん、そして向こうチームの不良さん方と共に陣地状況と敵の動きを偵察しに赴いた。

今回は向こうチームの不良さんのバイクに乗せてもらう。


“足”としての活躍はなし。


少々寂しい気持ちもするけれど、楽チンだったからよしとしよう。


たまには休暇があったっていいだろう?


夕暮れから夜に染まる紫紺空の下、俺達は敵対している不良達に悟られぬよう気を付けながら、商店街周囲をぐるりとバイクで走る。


商店街一帯にはごつい不良がチラホラ見受けられた。

素通りするバイクに不良が乗っていたら、ギッとガン飛ばし(恐!)、警戒心と威嚇をいっぺんに向けてくる(真面目に恐!)。


どうやらそんな態度を取る不良達は全員、『エリア戦争』に関わっている不良達のようだ。


幸いな事に、各々敵方の陣地に乗り込む様子は見受けられないけど、何処も一触即発の雰囲気を醸し出している。

半歩でも足を踏み入れたら、その瞬間に地雷を踏んでドッカーン、喧嘩が勃発しちまいそう。おそろしやおそろしや。


バイクの切る強風を正面から受け止めつつ、俺は目を眇めて商店街の風景を観察した。


敵対しているチームの様子は他の面子に任せることにする。

ヨウが俺を指名したのは俺に敵の観察をして欲しいわけじゃない。


ただ不良達の観察をするくらいなら俺じゃなく、判断力と分析力に長けているワタルさんを抜擢しただろう。


言葉にしなくても分かる。

ヨウが俺に任せてきた仕事が。


流れすぎていく風景を観察を凝視する。

目まぐるしいスピードで通り過ぎる景色は、自分の目で確認するだけの価値はある。

運転している不良さんに愛と勇気と根性を持って(今日の最重要ポイントだぞ!)、少しだけ商店街の道も走ってもらった。




暮夜の刻となる。

一頻り、商店街を見て回った俺達は、これ以上偵察する必要もないだろうと判断し、たむろ場に戻った。

すると早々首を長くしていた両チームのリーダーが呼びつけてくる。

既に話し合いはどう相手チーム達を伸していくのか、その作戦に移っていたようだ。まずは敵の様子を報告。

向こうの動きはまだ見受けられない、そう告げると、浅倉さんはそうかと頷く。ある程度予測していたみたいだ。


一方、ヨウは腕を組んで意味深に息をつくと、


「てめぇの方はどうだった?」


主語もなしに俺に質問を浴びせてくる。

舎兄と同じ顔をして、

「俺なら南を取るね」

現状を有りの儘に伝えた。


「四つの陣地の中で、一番有利なのは南なんだ。なにせ、あそこには裏道がある。それを踏まえて陣地を取ったなら、向こうの戦略勝ちだ」

「ケイがそこまで言うってことは……戦力に次いで地形的にも不利か」


「あの、何の話です?」


浅倉さんの隣に立っていた涼さんが首を傾げてくる。

「地形の話」

単刀直入に申すヨウは、舎弟(つまり俺)に地形を見てきてもらったのだと回答。


「ケイはチームイチ土地勘に優れている。商店街や周囲の地形を見てきてもらったんだ。こいつなら商店街の土地を攻略してくれると思ったからな」

「ンー、この地味っこい奴がなぁ?」


半信半疑の浅倉さんに俺は空笑い。信用されてねぇな、おい。

疑心を払拭するように、

「ケイの土地勘は確かだ。それは舎兄の俺が保証する」

ヨウが静かな声音で明言した。

「具体的にてめぇの見た問題点を挙げてくれ」

舎兄に頼まれたため、軽く説明する。