コーヒーの匂いはパパの匂い。



小さい頃、帰ってきたパパに抱き着くとコーヒーの香りと病院の匂いがした。



昔はよく膝の上に乗って本を読んでもらったり、休日はいろんなとこに連れてってもらった記憶がある…。



大きな手に撫でられるのが嬉しくて、勉強も頑張った。



パパが実家の病院を継いでから、あたしが寝た後に帰るようになり、そんなこともいつの間にかなくなっていた…。



「大事に…されてたね…あたし…」

「あぁ…」

「ごめんなさいっ…忘れてて、ごめん…」



昔の記憶と共に溢れた涙は後悔でいっぱいだった。



いつからか少しだけ大人になり、自分の世界を確立した。



それからパパと話すことも減り、あたしは親孝行なんかしたことがない。



「お前には苦労なんかさせたくなかった…。親の勝手と言われたらそうだが、それなりの相手に嫁がせてやりたかったんだ…」

「パパらしいこと言うね…」

「子どもを産むって、命懸けなんだぞ。守って行くことも、叱ることも、全部難しい。ユズにそれができるのか?」



不安と心配、寂しさと悔しさ。



パパの目はそんな目だった。