「じゃ、じゃあ…禄朗、とりあえず自分のクラス戻れよ、な?そろそろ本鈴鳴るし!」

 滅茶苦茶になりつつある雰囲気をとりなすように、七緒が言った。

「そっスね、名残惜しいっスけど…わかりました。でもっ!!せめて教室まではお見送りさせてくださいっ!!」

「え!?」

 全然ほんのりじゃないじゃん、と突っ込みたくなったのはきっと私だけではないはず。

その証拠に七緒は、面食らった表情で首をぶんぶんと横に振っている。

「いや、本当そんなんいいから」

「いえそう言わずにっ!」

 ちょっとひきつり気味の七緒と、きらきら瞳を輝かせた禄朗の視線がぶつかる。

「………」

 負けたのは七緒だった。

「…じゃー教室じゃなくて、そこの階段まででいいから…お願いシマス」

 げっそり感を漂わせた七緒が言う。この10分ほどで少しやつれたようだ。

「はいっ喜んでー!!…おいボサボサ、今舌打ちしたろ」

 どうやら禄朗もかなりの地獄耳らしい。

とりあえず、そっぽを向いてしらんぷり。

 七緒の言う「そこの階段」までの30メートルたらずの道のりを、禄朗は元気いっぱい先頭に立って歩きだした。

私はしぶしぶ最後尾につく。

 これからずっと、こんな感じの日々が続くんだろうか。

そう考えただけで眩暈がしてきた。

 少し先を行く2人を眺める。

 何やら興奮気味に喋りまくる禄朗と、たしなめるように相槌を打つ七緒。

 …七緒、なんだか本当にまんざらじゃないような。

 あの2人、もしも本当にくっついちゃったらどうしよう――いやいや男同士じゃん――でも、今どきそんなの当たり前なのかも――それにしても、確かに七緒は男にもモテるけどそういう趣味はないはず――でも、さっきも禄朗の勢いに押しきられていたし――でも――。

 無駄な堂々巡りに、溜め息がもれた。