「でもさすがにその髪はあんまりよ。何か大乱闘後って感じ」

「何それ」

 よくわからないけど、妙に心がそわそわしてきた。そんなにひどいのか、今の私。

 昨日の言葉通り、七緒は朝練があるらしくまだ教室に姿を見せない。

 美里がギラリと光る瞳で私を睨み付ける。

 …目力、強っ。

「…トイレで直してきまス」

「ん、よろしい。ただし朝のHRに遅れないようにね」

 ようやくにっこり笑った美里に背中を押され、私は1人よろけ気味に教室を出た。







「…もう切っちゃおうかなぁ」

 教室前の廊下の窓に映った自分の頭を見て、私は思わず呟いた(何か前にもあったなこんな事)。

 3、4年前から、「せめて外見だけでも女の子っぽく」とささやかな望みを込め肩辺りまでの長さを維持してきた私の髪。『可愛くなってやる』宣言以来、少しはボサボサ具合が落ち着いた(と思う。思いたい)けど、今日みたいに余裕がない朝なんかは我ながら本当に御愁傷様な事になる。

――いや、それ以前に!

 私の髪が落ち着いていたとして、七緒より「可愛い女の子」に見えるのかというと、それは頷けない、絶対に。

「…うぅ……」

 さっきまでとは打って変わって、私のテンションは急激に下がり始めた。

 恋すると情緒不安定になる、とはよく言うけど。最近の私の場合はそれが激しすぎて、このままだと心の変化に体がついていかずあと3ヶ月後くらいにポックリ逝っちゃうんじゃないか?なんて恐ろしい未来予想図まで頭に浮かんだ。

 ………っていうか、もう。

「あいつが可愛すぎんのが悪いんじゃボケ―――!!!」

 開け放した窓へ我を忘れて叫んでしまった14の冬、なのでした。
 
 と、その時。

 数メートル先から、今の私の絶叫なんて可愛いもんだわと思えるくらいの、ものすごい大声が響いてきた。

「あ゛ぁ!?んだとテメェ!!もっかい言ってみろやゴルァ!!」

…あぁ、このヤクザ風味な怒鳴り声。

なんだかものすごぉぉっく聞き覚えがある。