「ぐほっ。……え?」

 むせた。

「――だから」

 いちいち繰り返させんなよ、とばかりに面倒くさそうな七緒。

 さっきよりも少し大きな声で、言う。

「心都の前では女に間違えられたくなかったんだよ、俺は」

 呼吸困難を通り越して、呼吸停止だ。

 ねぇ、七緒。恋する乙女は皆、自意識過剰の妄想族なんだよ。つい最近までジャージを愛用していた私が乙女かどうかはともかく。つまり私は、その言葉を自分に都合のいい方向で受け取っちゃうからね?あまつさえ心ときめかせちゃうからね?

「七緒…それってどういう――」

「だってお前すぐからかうじゃん」

 と、七緒が口を尖らせた。

「はい?」

「俺が女に間違えられると、めっちゃからかうだろ。今日も、水も滴るいい女ーとかって。だから心都の前では絶っっ対に間違えられたくなかったんだよ」

「……あー、そーいう事ね、はい」

 ときめき終了。

 今までに何回も経験したパターンだ。どうやら七緒は、人(主に私)にほのかな期待を持たせた後それを盛り下げるつまらないオチをつけるのが得意らしい。しかも、全部無意識に。だから余計たちが悪い。

「でもな、今に見てろ。そのうちすっごい背ェ伸ばして柔道も強くなって、絶対間違えられないくらい男らしくなってやるから。そしたらちゃんと謝れよー?『今まで散々からかって悪うござんした』って」