進藤はその外見に似合わない空気だけの声――いわゆる乙女の内緒話系囁き声――を出した。

「あの人の名前、何て言うんスか」

少し離れた所で、まだ頭を下げられ続けている七緒。

何故か微妙に震えている進藤の人差し指は、しっかりとそれを示していた。

「2年2組の東七緒っスよー」

何で私まで敬語で喋ってんだろうなと自分に疑問を感じつつ答えると、彼はそっと呟いた。

「七緒先輩──…」

あれ今、薔薇咲いた?

一瞬すごく華やかな幻覚が見えたような。






――幻覚じゃなかった。

とても恐ろしい事だけど、薔薇は進藤の瞳の中に咲いていた。

おいおいおいおい。

突っ込む間もなく、進藤は回れ右して七緒の方を向く。

「七緒先輩!」

ちょうど帰ったあの少年の後ろ姿を見送っていた七緒は、

「え?」

いつもの顔で振り返る。

そう、いつものきょとんとした美少女顔で――――。

「…あ、もしかして」

私が信じ難い事実に気付く頃には、もう始まっていた。

何がって、爆裂不良少年進藤クンの、頬を紅潮させながらの大絶叫が。

「1年1組進藤禄朗っス!今、惚れましたっ!!オレとお付き合いしてくださぁぁ――――いっ!!」







新たな恋のライバルは、
性別の壁をぶっとばしてやってきたようだ。