「……」

流れる空気は、重くならなかった。

しばらく睨み合っていたかと思うと、ふいに七緒が進藤から手を離した。

そして、さっきからずっと地面にへたり込んでいたあの気の毒な少年に声をかける。

「だいじょぶか…?」

「は、はい」

進藤はというと、さっきまでの威嚇的な眼光はどこへやら、何とも間の抜けた顔で自分の右手をぼうっと見つめている。

えっと、何だっけこういうの――骨抜き?…ちょっと違うか。

とにかく、私が感じる事はただ1つ。

何かすごいな、七ちゃん。

そして今回も役に立ってないなー心都ちゃん。

私は小さな感動と虚しさを覚えながら、少年にすごい勢いで頭を下げられ照れまくっている幼馴染みの姿を眺めた。

「――あのっ」

「はい?」

気が付いたら、すっかりナイフの鋭さを失った進藤が私のすぐ傍にいた。

ていうか敬語だ。七緒は、さっきまでヤクザよろしく怒鳴り散らしていたこの1年生の言葉遣いまでをも変えてしまったのか。