「でも料理って七緒さぁ…」

「だから心都に教えてもらいたいんだよ」

悲愴感漂う七緒の声。それには理由がある。

「ひっどいもんね、七緒の料理…」

小学校低学年の頃、母の日に私の家で一緒にカレーを作った。

エプロンを着てさぁやるぞと意気込んだのはいいけれど、じゃが芋を切る七緒の包丁さばきを見た私は、幼心にはっきりと思った。

絶対こいつに包丁を持たせちゃいけない、って。

というか包丁だけじゃない。

味付けも盛り付けも分量も、きっと生まれつき才能がないってこういうのを言うのかなぁと考えてしまうくらいに、七緒はひどい。

そうしてその日出来上がったカレーはある意味スペシャルだった。

「確かにあの腕前で差し入れとか作っちゃったら相当素敵な事になりそうだねー。でも私、いくら部活でやってるからって人に教えられるほど上手くないよ?」

「そんなに豪勢なもんは作んないし、基本的な事教えてくれるだけでいいから!――駄目?」

七緒は再び両手を合わせ、縋るような目で私を見た。

「………。」

そんな顔されて、断れるわけないでしょーが。

「わかった、いーよ。でも本当に大した事は出来ないからね、そこんとこよろしく」

七緒が屈託ない笑顔で拳を宙に突き上げる。

「サンキュ、やっぱ持つべきものは料理ができる幼馴染み!」

やっぱりポジションはそこだよね。心の中で小さく呟いて苦笑い。

「じゃあ帰りに家寄ってく?冬休みまであんまり日もないから特訓始めるんなら早い方がいいし、きっとうちのお母さんも七緒が来たら──」

喜ぶよ、と言いかけた私は思わずその言葉を飲み込んでしまった。

「…ねぇ、あれって」

10メートルほど先、人通りの少ない細い道を指差す。

そこには向かい合う2人の少年。着ている制服はうちの学校のものだ。