「冷てぇな、マジで何なんだよお前ら!」

と、全身ぐしょ濡れのヤマザキ。

「おい東、お前弱いくせに俺にいきなりかかってくるなんて100万年早えーんだよ!」

苛立たし気に床の雑巾を蹴り飛ばし、きっと早く着替えたいんだろう、鼻息荒くドカドカ帰ってしまった。

「………。」

私はしばらく放心状態。

今のは何?って混乱状態の心の中で何度もぐるぐる繰り返した。

さっきヤマザキが蹴って跳ね上がった雑巾が頭の上に乗っていたけど、どうにかする気力もない。

七緒もびしょびしょのまま床にへたりこんでいた。

「本当に…何してんの」

私がぽつりと漏らした言葉に、返事はない。

七緒は髪からぽたぽた滴れる水を気にもせず、ただじっと床の一点を見つめていた。

10歳の私には、この沈黙が異様に怖くて、

「──そ」

言いたい事もまとまっていないのに、気持ちを吐き出すためつっかえながらまくしたてた。

「そ…そんなさぁっ!…そんな、人の代わりに怒ったりとか、そういうの…そのせいで七緒が、痛い思いするんだから…」

「違うよ」

相変わらず床を凝視する七緒の目は、誰かを睨んでいるようにも見える。

「…違うよ。俺、心都の代わりに怒ったんじゃない」