「なぁなぁ東ーそんな疲れきってないでさー校庭でバスケやろーぜー」

七緒の隣でブーたれているのは、バスケ部の田辺だ。

「…悪りぃ、今日は止めとく」

それでいいのか柔道少年、とそのぐったりした七緒の背中に突っ込みたい。

「昨日約束したじゃんかよぉ東ー!」

普段から年中お祭りをしているような性格の田辺だけど、今日は一段と声がでかい。

彼は、七緒を誘いながらもさっきから視線が美里に行っている。

わかりやすい奴。

それを知ってか知らずか、小悪魔美里は彼ににっこり笑いかけ、

「田辺君うるさい」

…田辺撃沈。頑張れ。

「それにしても朝は本当にびっくりしちゃったわよ」

そ知らぬ顔の美里が、私にだけ聞こえる声で囁いた。

「2人そろって遅れて来るし、七緒君はほっぺに手形で心都は目が真っ赤なんだもん。しかもその言い訳が…」

美里が笑いを噛み殺した。

「あれは私も無理があると思うよ」

登校中の細い道でボクが後ろから杉崎さんに声をかけたら変質者と勘違いされ泣きながら平手をくらい和解するのに時間を要したので遅刻しました。

怒り狂う橋本に、七緒はペラペラとそう説明した。

信じてもらえるはずもなく、お前らどうせ寝坊だろう、と説教をされてこの時代遅れの罰まで与えられた。

「朝から大変だったのねぇ」

しみじみと美里が言う。

彼女には、1時間目が終わった後に(小悪魔スマイルの質問攻めにあいながら)ちゃんと本当の事を説明した。

「でもおかげ様で一段落だよ。ありがと美里」

「お礼はばっちり彼氏彼女になってから言ってよねー」

「いや本当に、美里には感謝してるよ。昨日も裏庭までついてきてくれたし」

それに今、私の髪が朝より落ち着いているのも、美里が貸してくれたスタイリング剤のおかげだ。

朝の質問攻めの後、「ちょっとは可愛くなれるように努力する」と小声で宣言した私に、あぁやっと心都もやる気出してくれたのね嬉しいわじゃあまずぐしゃぐしゃの寝癖を直すのが第1歩よいやそれよりそのダっサいの着替えなさいよ、と句読点の入れ場がないくらいの激しいエールをくれた。

そんなわけで私は今、きちんと制服姿で髪も人並みにまとまっている。