「えーとですねぇ何故ここにいたかと申しますとー……。ワタクシ本日授業中に貧乏揺すりしていたじゃないですかー。あの瞬間頭の中で謎の声が響き渡りましてー」

「はぁ?」

「『裏庭ヘ・ジャージデ行ケヨ・放課後ニ』と訴えるその声に従うまま放課後ここに来てみたところ貴方が見知らぬ人にちゅーを迫られていたのでー、もしや痴女かと思いとっさに飛び出してしまいましたー。もしかするとあれは神様の声だったのかもしれませんね」

「何ステキめな笑顔で綺麗にまとめてんだよ。どーせならもっと上手く嘘つけ」

目を眇め呆れたように七緒。
嘘をつく時、時間を稼ごうと不自然に語尾を伸ばすのは私の昔からの癖だ。

今回はそれに妙な敬語と5・7・5が加わり怪しさMAXで、七緒が信じるはずもない。

「…そーですよ覗いてました!えぇ覗いてましたとも!!覗き見する痴女はこの私ですよ!!どーもごめんなさい!」

「うわ開き直り!?」

どうしてこうも可愛くないんだろう、私。

告白覗いて、邪魔して、最終的には開き直りか。我ながら最悪。

――でも、どうしてもじっとしていられなかった。

どうしても。

「…嫌だったの」

きょとんと私を見る七緒の真っ直ぐな目が、痛い。

「七緒が何か綺麗な先輩に呼び出されちゃったり…それでキ、キスされそうになっちゃったりさぁ…。そういうのが…どうしても嫌だったの」

ガキっぽい事、言ってる。無茶苦茶だ。

「ごめんね、性格悪くて」

「いや、せーかく悪いっつーかさぁ…」

ぼんやり呟き、七緒はニッと笑う。

別に上品な笑い方でもないのに、周りの空気がきらきらしたような錯覚を覚えた。

もうさっきまでの顔じゃない。14年間見慣れたいつもの七緒の顔があったから、私は少しホッとして、そしてほんの少し残念だった。