「……東君」

「はい?」

 先輩の目が鋭く光ったように見えた。気のせい?

 ――いや、気のせいじゃない! 先輩はメデューサみたいに髪を振り乱し、ガバッと七緒に抱きついた。

 なっ何してんのよ! 叫びそうになった私の口を美里の白い手が慌てて塞いだ。

 七緒はじたばたしてるけど振りほどくにほどけない。それもそのはず、七緒より背の高い黒岩先輩は七緒にすっぽり覆いかぶさるような形になっている。

「そんな事言わないでよ。あたし、東君の事こんなに大好きなんだよ?」

「いや、ちょっと、あの……っ! は、離して下さい」

「言ったでしょ? スタイルには自信あるって」

 やけに色っぽい声。

 ヤバい、この先輩こんな過激な人だったの!?

 先輩は、真っ赤な七緒にさっきよりグッと顔を近付けた。

「ね、付き合ってよ」

 七緒の目を見つめ、そしてますます顔を……いや、唇を接近させて。

 はっ。もしかしてこれは。

 チ、チューしようとしてる!?

 ……もう。

 もう、駄目だ!

 限界、の2文字が頭に浮かび、

「やめて下さいっ!!」

 思ったよりも大声が出た。

 そして気が付いたら、マジでキスする5秒前の七緒と黒岩先輩の目の前に、私は立っていた。

「心都……?」

 七緒のきょとん顔。

「誰」

 黒岩先輩の恐い顔。

 後ろからは、あっちゃーと呟く美里の声。



 ――もう、どうにでもなれ!!