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 冬が好き。

 もっと詳しく言うと、冬の澄んだ朝。私はこれが好き。

 冷たい空気に包まれると、朝のどたばたした慌ただしさも眠気も吹っ飛んで、たちまち心が落ち着く。私の解熱剤。

 だからその日も、行ってきまーすで家から1歩出た瞬間、ひんやり感がたまらなく嬉しかった。

 今日は1時間目から嫌いな数学で居眠りする気満々だったけど、まぁ頑張ろうかという気持ちになる。

 だけど、しかし、でも。

 やっぱり世の中、空気1つで全てが落ち着くはずがない。そう思い知ったのは歩きだした数秒後、見慣れた姿を前に発見した瞬間だ。

 私の顔はみるみる熱くなって、嬉しさを伴なったドキドキが体中を占領した。
 もはや冬の空気じゃ冷却不可。

 だって、大好きな人の後ろ姿だったから。

「七緒(ななお)」

 私の呼ぶ声にゆっくり振り向いたのは、可憐な花がよく似合う、天使のように光を放つ、ショートヘアの美少女……に見えるけれど、正真正銘、男である。