そして、

「それにしても…よく俺の家わかったなー…」

 呆気にとられた間抜け面のまま七緒が呟く。外での立ち話は寒いからまぁ入れ、と禄朗を招き入れ、またまた買い物中で不在の明美さんに代わりお茶まで淹れた彼も、未だに状況が飲み込めていないようだ。

 七緒が言葉を発した途端、禄朗は口調と表情を変える。

「もちろんっ!オレ、七緒先輩の事なら何でもわかるんスよ」

 はい。今、明らかに空気が一瞬凍りました。

「というのはお茶目な冗談っス。本当は放課後テキトーに生徒捕まえて聞いたんスよ」

「は?生徒…?」

「校庭にいたんで部活中だったんだろうスけど、2年の東七緒さんの家の場所を知ってるかどうかってオレが優しーく控えめに尋ねたら、その人すぐ教えてくれましたよ。短髪、色黒、泣きぼくろ。多分バスケ部っスね、近くにボールが転がってたんで」

「………田辺」

 げんなりと、七緒が友人の名前を呟く。私の頭にも、美里に惚れて度々ドンマイな目にあっているクラスメイトの顔が浮かんだ。

もちろんこの進藤禄朗が「優しーく控えめに」尋ねたはずはないと思う。田辺、脅しとかに弱そうだもんなぁ…。

「――で、禄朗。人に俺ん家の場所聞いてまで、どうしたんだよ」

 ぽ、と禄朗が初々しく頬を染める。

「実は、どーしても今日中に七緒先輩に言いたい事があるんスよ」

「…なら朝言えばよかったじゃない」

「そこ、うっせぇよボサボサ!!さっき思いついたんだよ!」

「だからボサボサって言うな!朝よりはマシだっつーの」

「あーはいはいストップ」

 七緒が私と禄朗の間に割って入る。このまま喧嘩に突入したらまた話がややこしくなる事を察したのだろう。

「えーと…本題は何だっけ」

「七緒先輩に言いたい事があるんスっ」

「あぁそうそう。何?」

 禄朗はつんつんに逆立った頭を掻き、

「えーっとスねぇ…」
 と、恋する純情少女よろしく少しもじもじした。

 激しく嫌な予感。