「…どう思う?」
栗田咲子と別れ、警視庁に戻る車の中で俺は南に聞いた
「どうって…事故、でしょう。
あの階段は夜になると真っ暗で足元が見えにくいらしいし。
被害者が利用したのは母親と別れた六時頃でしょう。
その頃はもう、日が落ちて真っ暗よ。不自然なところは…ないわ」
「死んだ場所を除いてな」
俺はポツリと言った
「別に、不思議じゃないでしょう。
その日はエレベーターを使う気分じゃなかったのかもしれないじゃない」
「栗田親子が引っ越してきてから五年だ。
栗田咲子の証言では、五年間一度も使ってないんだ。
よりによって事故の日に、初めて使うなんてことおかしいだろ」
「エレベーターが来るのが遅かったとも考えられるじゃない」
「二台あって、たまたま二つ共遅かった、ってこと」
「有り得なくはないでしょ。で、急いでた彼女は階段を使った」
「仮にそうだとして、普段使ったことのない非常階段。
しかも、夜だ。暗くて足元は注意するだろ。
いくら急いでいたからといって…足を滑らせ事故だなんて」
「…彼女は、何を急いでいたのかな」