「母上、いい加減に諦めなさい。
これ以上のちょっかいは許しませんよ。」



鶴岡八幡宮のあの大銀杏の、
保存されている哀れな幹の上に2羽の鳶がとまっている。

1羽は見事な暗褐色、

もう1羽はかなり白っぽい毛が目立つ老鳶のようだが、

他のものを寄せ付けない凜とした風情がある。


しかし真夜中に鳶とはまともな光景とは思われないが、

幸いな事にそんな時間に境内に人影は無い。

2羽は月明かりだけの世界で、

ゆっくりと辺りを見回して懐古心を浮かべた顔をしている。


鳶の姿のはずだが、
何故か筆者には人の顔が見えている。

人の顔… 

まさに歴史の本に描かれている
北条政子と息子の実朝(実鳶)がそこにいた。




「お前は私の邪魔ばかりする。
私はただ銀杏丸を手元に置いておきたいだけなのだ。」


「母上や私は現世では不要の存在なのです。

いつまでも未練を持ち続けるのは災いの元。

自分の居場所に戻るべきです。」


「嫌じゃ。
たとえ体は朽ちても私は銀杏丸の行く末をこの手で作ってやりたい。

昔の私は非力だった。
しかし今は、私の元に集まる霊共が無数といる。

彼らを操れば何でも可能だ。」


「忘れたのですか。
その不確かな愛をあの子にぶつけたが故に、

母上たちは抹消されたのですよ。

この銀杏の木が死んでしまった以上当然の結果かも知れません。

私は江の島を拠点に国の様子を見て回ります。

しかし私のチャクラを軽んじなきように。
あの子に手出しは出来ませんよ。」


「お前こそふざけた真似をしているではないか。

死んだ人間を生き返らせるなど有るまじき所業じゃ。」



死んだ人間… 

誰も聞いている者はいないが、

2羽の鳶たちはなかなか興味深い話をしている。