ここはどこだろう、と首を傾げれば、また一筋の涙がこぼれた。
不安という風が冷たく私をあざ笑い、通りすぎていった。

「どこ…?どこにいるの?」

誰を探しているわけでもなかった。
ただ、誰でもいいから自分の話し相手が欲しかった。
辺りを見回したって360°全て薄暗くて、どこに何があるのか分からなかった。
数時間前まで私は確かに誰かと一緒にいた。
でもそれが誰なのか、私の知っている人なのか…分からなかった。
記憶がないのか…。
いや、記憶がなかったら数時間前のことなんて覚えてるはずがない。
それ以外のことなら、なんとなくうっすらと覚えている。
父親や母親のこと…学校での授業内容…。
でも、不思議なことに人の名前や人との関係が思い出せない。
顔は…うっすら覚えているけど、その人が何という名前で私とどういった関係なのか…分からなかった。
どうしてそんなことまで忘れてしまったのかもわからない。
私が何を忘れているかもわからない。
どうしてこんな薄暗い森の中にいるかもわからない。

考えても仕方ないか…とにかく私は進めばいいんだ。
どこに行くのかわからないけど、ここでずっと考えていてもだめだ。
歩かないと。
今、頼りにできるのは、私のこの前向きさだけだった。
しばらく行けばきっと誰かに会えるだろう…。
そして少しでも何か思い出せるといいのだが…。